掌編小説 | ナノ


▼第六夜 「墓石に煙草」

煙草がオレのトレードマークだって、そう思っている奴はこの中にも多いと思う。
忍者ってのは気配を消すのも仕事のうちで、臭いを気にして吸わない奴の方が圧倒的多いからな。
だからせっかくなんで、オレからは煙草にちなんだ話でもしよう。

当時二十歳になったばかりのオレは、三人小隊で近隣の小国に派遣された。
何でも大々的な祭祀が行われるってんで、忍者も含めそれに参加する人数が多く、夜警を木ノ葉に委託したらしい。
深夜まで続いたその祭りの中オレは里外れのある通りに配属され、闇の中でうっすら見えた石に腰を下ろし、そこから遠くの喧騒に耳を澄ませていた。
酒も振る舞われているようで、神聖な祭りには相応しくない言葉も聞こえてきたぜ。
オレも口がさびしくなっていたが、さすがに任務中ってのもある。
胸元のポケットに入れた煙草を恨めしげに撫でていたそのときだ。
闇から湧いて出たように、目の前に立っている人がいた。

ちょいとそこの忍者さん、一本くれないかい。

そう話し掛けてきたのは、汚い身なりをしたじいさんだった。
足腰弱そうなじいさんでね、立ってるのもやっとだって体でそこにいたが、だったらなぜそこに立つまでオレは気配に気づかなかった?
手練か幽霊か、二つに一つだと思って体を強張らせた。
しかしじいさんは、口喧しくしてくるわりに、手を出してこない。
オレは無視を決め込むことにした。
そのまま夜が明け、気がつくとじいさんは消えていた。
一度祭りの本部に立ち寄ってから里に帰る途中、ちょうどオレが担当していたその通りをとおったんだ。

日があると印象も変わって、何の変哲もない道だったよ。
だがオレが腰を下ろしていたそこには、小さな墓石が横倒れになっていた。
名前も読めないような年代物だった。
オレはその墓石の前にしゃがみ込み、手持ちの煙草を一本、火をつけてその墓石にのせた。

すると、それはみるまに灰に変わった。
不思議なこともあるもんだ、そう同僚が囁き合う中、オレは手を合わせたよ。
じいさん、一晩世話になったな。
そう心の中で話し掛けながら。

――お前らも、もしオレが死んだらそのときは、煙草を一本、そっと墓前に置いてくれよな。

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