掌編小説 | ナノ


▼第二夜 「借宿の女の子」

あれは月もなく、暗い夜だった。
オレは任務で里を離れていた。
任務事態はランクも低かったんで、その日のうちに片付いて、そのまま里に帰ろうかと思ってしばらく進んでいたが、そっちの方は集落が少ないせいか、夜道を帰るってには暗過ぎてね…。

本来なら翌日帰宅なんだから、べつに急ぐ必要もないかって、途中で諦めて近くの民家を探して泊めてもらうことにしたんだよ。
結構大きな家で、茅葺きの屋根だったな。
事情を話したら快く受け入れてくれて、残り物ですみませんって言いながらも、夕食まで頂いたよ。
子どもが指くわえて見てんだ、食に困ってないってわけでもないだろうに。

それで寝床を宛てがってもらって、就寝にはまだ早いからってんで囲炉裏の明かりで読書してたんだ。
そしたら、まだ目の冴えてる女の子が膝に乗っかって、興味本位でオレにちょっかいだしてくんだな。
しかもそれが、その本読んでって言うのよ?
ちょっと無理な話でしょう。
だから、これは君がもう少し大人になったらねって言ってやったら、どれくらいって聞いてきて。
十八歳だよって言ったら、じゃあ大丈夫だ、って嬉しそうに目を輝かせちゃって。

ま、ともかくね、オレも参ったわけ。
その子、見た目は十歳やそこらで、数を数えられないってわけでもなさそうだし、だからと言って冗談をいいそうな子にも見えないわけ。
でもお世話になっている家の子だから無下にも出来ないんで、話合わせて、じゃあ何歳なの?って聞いたんだ。
そしたら笑顔で、六十歳くらい、って返されて。
その後こう続けたんだ。

私、死んでから、五十年は経ってるの。
だから平気だよ…。

瞬間、ふっと膝の重みが消えた。
囲炉裏の火も消えていた。
それどころか、家事態が、吹きさらしの荒れ放題。
人が住んでいるような気配なんか全くなかったよ。
嘘みたいな話だろ。
オレも夢でも見たのかとも思ったけど、翌日太陽の下で本を開いたら、暗がりで読めるはずのない本の内容をオレはちゃんと知っていたんだよな。

――今でも思うよ。何も聞かずに読んでやるべきだったか、ってな。

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