掌編小説 | ナノ


▼紅)斜面の家

紅がまだ中忍の頃だった。
突然の豪雨に襲われ、急遽宿探しをしたことがあった。
予定よりだいぶ手前で立ち往生したが、幸いにも仲間が地元民を見つけた。
迷わず宿泊の希望を申し入れたが、相手の表情は芳しくない。

「私たちの村は貧しい。忍者がいたとなれば皆の気が荒立つので、どうかお引き取りを…」

「雨が止むまででもいいので、どうかお願いいたします」

それでは、と通されたのは、出会った場所からかなりくだった位置にある一軒家だった。
あたりに民家はない。

「作業小屋なのかしら。村の人が見当たらないわね…」

そう言って、奥の窓にかかった簾を少しずらした紅は、ぎょっとして身を引いた。
なんだ、と近づく仲間の腕をつかみ、隙間から覗くように促す。

窓から見える崖にはよく見るといくつもの窓が埋め込まれていた。
土中に家を作り、暗がりからよそ者を監視しているのだ。
いざとなったら土砂で埋めてしまう腹づもりかもしれない。

里に守られていない者は、自衛をしなければ簡単に攻め込まれてしまう。
ただの一般人が怖いと思ったのはあれが始めてだったと、同じ任務についていた者で顔を合わせると必ず話題になる。

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