掌編小説 | ナノ


▼キバ)それでも大切な人

いらっしゃいと、扉を開けられた瞬間から嫌な臭いが流れ出てきた。
不意打ちの加齢臭はキバには凶器でしかない。
うっと鼻を押さえそうになったところで、隣のシノから足を強く踏まれる。

「こんにちは、今日の任務はおうちのお掃除でよろしかったですか?」

ヒナタが依頼内容を確認すると、老人はそうだそうだとまくし立てながら家を案内した。
その声を聞きつけたのか、慌てた足音が近づいてくる。

「お義母さん、この方たちは?」

「掃除を頼んだ忍者さんだよ。この頃ハナミさんが家のことをしないから。嫁いできたときはあんなによくしてやったのに…」

「それより、お薬はまだ飲んでませんよね?」

「まだ食事もしてないじゃないか!」

とは言うものの、キバの位置からは流しの食器が見えていた。
覚えていないだけで、すでに食事を終えているのだろう。
中年の女性は、食前のお薬ですよ、となだめながら、老人に薬の用意をしてあげていた。

同じ時代を生きていても、同じ時間の早さで生きられるとは限らない。

自分もいつか、こんなふうに赤丸の世話をする日がくるのだろうか。
目が合った赤丸は、キバの頬をぺろりとなめた。

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