掌編小説 | ナノ


▼シノ)夏の灯り

里はずれの川辺には、それはもうたくさんの蛍がいたらしい。
夏になると里の子供たちは必ず親にせがんで見に行った。
そんな子供時代を送ってみたかったと、シノはたまに思う。

「でもよ、カブトムシならまだいるだろ。そっちの方が何倍もかっけェからよくないか?」

「キバは風流という言葉を知らないな」

シノがやれやれと肩をすくめると、ヒナタはそういえばと話し出す。

「でも、お盆の時期だけ見られるって噂なら、あった気が…」

「それは木ノ葉の話か?」

「うん、確か東の森にある、小さい川だよ」

「あのあたりは有名な心霊スポットじゃねーか」

キバの言葉に、ヒナタは神妙にうなずいた。

「そう…だから、それは亡くなった蛍たちなんじゃないかって話…」

確かに、里に奇襲をかける輩が多かった時代、防波堤になっていたあの付近は今でも出るという噂だった。

過去の亡霊が、いっせいにその身を焦がす。
そんな光景を思い浮かべ、シノは静かに冥福を祈った。

蛍がいなくなって悲しいのは、人間よりむしろ、生きる場所を奪われた蛍自身なのだろう。

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