掌編小説 | ナノ


▼サクラ)見えない同志

図書室で勉強をした後、遊び疲れて帰る同級生の姿を見かけでもしたら、その日の気分は最悪だ。
見つかる前に、そっと道を変えていた。

自分でも勉強は好きな方だった、とサクラは思っている。
ただ、そういうキャラなんだと思われてからは、いいことなんて何もなかった。

サクラは勉強が出来て当たり前。
勉強が出来なくなったら、なんの取り柄もない。
それはもう恐怖でしかなかった。
ページをめくる手が遅くなれば気が急くし、周りの子が未読の本を持っていれば私も読まなければと義務感が沸く。

つらい。つらい。つらい――。

そんな思いが、ある日、ふとしたきっかけで遠ざかる。

大作である『忍軍師捕物帳』は、図書館の片隅でほこりをかぶって読者を待っていた。
何ヵ月かもかけ最終巻まで読み終え、何気なくページをめくったときだった。

「なんだろう…」

出版年が書かれたページに、誰かがしおりに使っていたのだろうか、一枚の紙切れが挟まっていた。
しかしそれが単なる忘れ物でないとすぐに分かった。

読破おめでとう。
立派な忍になってね。

手紙の主は未だに不明だ。
だがその紙は、今も机の中からサクラを支えていた。

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