掌編小説 | ナノ


▼テンテン×暗証番号

とある日の任務帰り。

帰宅時間を知らせるためメールを起動させようとしたテンテンは、開いた携帯の画面を見てはてと首を傾げた。
班員で撮った写真がでかでかと表示されるはずのそこは、なぜか真っ暗だったのだ。
しかしすぐに今朝方まで充電していた事を思い出し、今度は電源ボタンを長押し。
そして見慣れない画面の出現に、今度こそ顔が強張った。

「どうかしたんですか?」

その様子を眺めていたリーが、珍しく困り顔の班員に声をかける。
その隣では同じく班員のネジも無言ながらテンテンを気にかけているのか、帰路の歩調を緩めた。

「それが、暗証番号が思い出せないのよ」

「暗証番号ですか?」

「そう、携帯の暗証番号。ここ最近電池切れる前に充電してたから、すっかり忘れちゃってて」

そう言いながら思いついた数字を片端から入れるテンテンだったが、その全てを跳ね退けられていた。
そして根気強い携帯はただ無機質に問い続けるのだ。
ロックナンバーは、と。

「控えはないんですか?」

そう尋ねるリーに、テンテンはキーを押しながら答える。

「残念ながら。四桁しか入力できないからって見くびってたわ」

「四桁だと一万通りはあるな。桁数が違う事も考えるとそれ以上だ、地道に探すには手間がかかるぞ」

「げ、そんなにィ−!?」

ネジの示した現実的な数字に、あてずっぽうで動かしていたテンテンは手を止め驚く。
どれを押しても自動で米印に変換される画面は一見すると代わり映えがなく、それまでセキュリティーとしては頼りなく思っていたが、実は暗証番号を知らない者には手厳しく立ちはだかる大きな関門だった。

「手がかりがあればいいんですけどね」

気遣うようにつぶやくリーに、テンテンは暮れかけた空を見上げ、自信がなさそうに言った。

「私が覚えやすい暗証番号にしたって記憶ならあるんだけど…」

「無難にいくと誕生日になるが」

「それはない。さすがに他人から予測されやすすぎでしょ?」

「それなら1010なんてどうでしょう」

「それもないわー。10月10日がナルトの誕生日って知って変えたから」

次から次へ挙げられる推測をばっさりと切り捨てるテンテンは、二人の挙げる候補が違うということだけは分かっても、未だ正しい答えにはたどり着けないでいた。
それからも、テンテンに縁がありそうな数字をひたすら並べていくネジとリーだったが、そのどれもが不発に終わる。

緩めたとはいえ、歩みを止めない三人は、確実に目的地に近づいていた。

そしてそれはテンテンの家が目前という場所まで来たときだった。
一向に進展のない状況に、百発百中が自慢の彼女はとうとう痺れを切らしたのだ。

「こんなことならいっそ、買い替えた方が早いわよね」

そう言うと、顔つきが怪しくなり、携帯を左手に持ち替えた。
そのまま空いた右手をホルスターに近づけると、その一連の動作を見ていたリーはある事に感づき、とっさに彼女を止めようとする。

「テンテン、待ってください!」

しかし勢いづいたテンテンは止まらなかった。

「問答無用、親には任務中に壊れたって事にしとけばいいのよ…!」

リーの伸ばされた手が届く前に、彼女はおもむろに携帯を空中に放った。
そしてそれは一瞬のうちに――右手から放たれた暗器によって、木に叩きつけられたのだ。

してやった。

ストレスの原因がなくなり、満ち足りた笑顔でいるテンテンの肩を、ネジが叩く。
彼もまたリーの言わんとしていた真相に感づいていたのだ。
そして重々しい口を開いた。

「もしやと思うが一応聞いておく。暗証番号は971では…なかったか?」

夕暮れどき、変わり果てた携帯の姿は陰りの中に見えなくなっていた。
が、百発百中のテンテンが狙いを外すわけもない。
ネジが白眼を使うまでもなく状況は明らかで、何よりもテンテンの表情が、その無惨な結末を物語っていた――。

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