▼リー×電波
全身タイツの緑が、赤屋根に映える。
木ノ葉きっての個性派忍者のガイとその弟子リーは、その見晴らしのいい他人様の家の上で、ターゲットを発見した。
彼らの視線の先には、班員のテンテンがいる。
自宅を目指して歩いているところだった。
そしてその手に携帯が握られていることを確認すると、ガイは重々しく口を開く。
「リー」
「なんでしょうガイ先生」
「里は今、急速に機械化が進んでいる。携帯はその象徴のようなものだろう。そして皆はそれを当然のことのように受け入れている…だがリーよ!!」
「はい!ガイ先生!!」
熱のこもった呼びかけに、はっと姿勢を正したリーが師を見上げると、ガイは拳を握りしめ、力むあまりに小さく震えていた。
「虚しいとは思わないか?機械に頼り、手間を惜しむようになったこの世界を!」
「僕もちょうどそう思っていました!」
「そうか、それなら話は早い!これは時代の変革とともに我々に与えられた新たな試練なのだ。人は機械を操る道具でなく、また人の方が機械よりも何倍も優れていることを、ここに証明してみせようじゃないかっ!」
「くーっ、それは素晴らしい考えですよ、ガイ先生!!」
感涙を見せたリーは、大袈裟な動作で決定ボタンを押すばかりになった携帯をガイに手渡した。
ガイはそれを受け取り頭上高く掲げる。
「準備はいいか?」
「いつでもいけます!」
腰を下ろしスターティングポーズを取ったリーの気合いなんて露知らず、変わらぬ歩調で通りの角を曲がったテンテン。
その瞬間、電波塔に阻まれ、テンテンの姿が消えた。
テンテンと電波塔、そしてリーを結ぶ線が一直線上に並んだのである。
「今だ、いっけえええぇ!!!!!」
それを見計らいガイが腕を振り下ろした。
親指はしっかりボタンを押している。
リーは、走る。
時代の変化に抗い、走る。
電波より早くあれと、ひたすら走る。
そして奇跡を起こした――。
「テンテン!」
「な、どうしたのよ!?」
たかが百メートルで、汗はダラダラ、激しい息切れまで起こす猛ダッシュで駆けつける。
周りの一般人は控えめに言ってもドン引き状態だった。
「どっちが、早く…着きましたか!?」
途切れとぎれにリーが尋ねると同時、テンテンの携帯の着信音が鳴った。
「やった、やりましたよ、ガイ先生!!!」
勝利の確信に、ガッツポーズを見せたリーは、人目も気にせず跳び上がって喜んだ。
その嬉しそうなこと嬉しそうなこと。
それはまるで見ているこちらが腹立たしくなるほどで――腰に手を当てたテンテンは、のけぞって大きく息を吸い込んだ。
「もう、毎回このパターンなわけ!?メールで連絡する意味、ないじゃない!」
ガイとリーの修行は、総じて不評だ。
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