掌編小説 | ナノ


▼アスマ×スクロール

任務帰りにメールチェックをすると、何通かのメールに混じって、紅からのメールも受信していた。
他を無視して別フォルダに入るように設定していたそれを真っ先に開く。
件名はなかった。

『今夜九時、
上忍を集めてアスマの家で飲み会
私はアンコを誘うから、アスマは男性陣の召集頼んだわよ
それと、酒の調達もよろしく』

紅からのメールは素っ気ない。

絵文字を乱用する事もなく、用件だけが事務的に書かれた文面はどか冷たい印象を与える。
とても恋人宛てとは思えない。

本人はそれを同僚からのカモフラージュだと言い張っているが、オレからすれば単なる照れ隠しだ。
プライドの高い女だからストレートに甘えることに抵抗があるんだろう。
他人のメールをのぞき見する不躾な奴はそういないだろうに――と思ったそばから、いつの間にか背後に忍び寄っていたいのに携帯を取り上げられた。

「先生、それって紅先生から?」

「ばっ、見るな!!」

とっさに奪い返そうとするが、そのまま軽い身のこなしでシカマルとチョウジのところまで逃げられる。

身近にいた危険分子に気づかなかったオレは、紅の勘のよさに感服した。
なるほど、メールが素っ気ないのはこれを危惧してのことか。
確かにいのはずいぶん前からオレと紅の仲を怪しんでカマをかけてきていた。

まあ、どうせ見られてまずい内容でもないだろう。

諦めて放っておくと、しばらく取り囲んで画面を見ていた三人は、期待ハズレだったのかあからさまにガッカリした様子で携帯を閉じる。
そしていのが小声で指示を出すと、チョウジが軽くうなずいて、どこからか小ぶりな包みを持ってきた。

「先生、これ私たちから。この間のストラップのお返しです。これで元気出して下さい」

哀れそうな視線を投げかけられているのは気のせいだろうか。
差し出されたそれを受けとると、見かけよりずしりと重かった。


「――ねえアスマ、一つ聞いていい?」

「ん、どうかしたか?」

「これって、アスマの趣味なの?」

約束の時間に玄関を開けるなり、紅はそう聞いた。
指差すそれは、三人からの贈り物だった。

「この前、任務先で土産を買っていったろ。それのお返しだとよ」

「ああ、例の木彫りのストラップの?」

「それになぞらえて買ったんだろうな」

「アスマが買ったのが猪鹿蝶だから、お返しが、」


“木彫りの熊”


「よく特徴捉えられてるわね」

豪快に魚にかぶりつく熊の頭を撫でながら、そう言って可笑しそうに笑った彼女。

「まったく可愛いげのない奴らだよ。いのもシカマルもチョウジも、――それにお前も」

スクロールした一番下。
紅からのメールには続きがあった。

『なんて嘘、
おいしいワインが手に入ったの
たまには二人で飲みましょう?』

ワイン片手によそ行きの服でやって来た紅に、触れる程度のキスを落とす。
恥じらう彼女の手をひいて、静かに家に招き入れた。

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