掌編小説 | ナノ


▼シカマル×アラーム

断続的な電子音。
特等席で昼寝をしていたオレの隣。
携帯が震えるのが分かった。

本日一度目のアラーム。

めんどくせぇなと思いながらも横たえていた体を起こすと、ちょうどチョウジが階段をあがってくるところだった。
目が合い互いに軽く手をあげる。

「シカマル、やっぱりここにいたんだね」

「よぉチョウジ。時間ぴったしだな」

「あれ、待ち合わせなんかしてたっけ?」

はてと首を傾げるチョウジ。
確かに待ち合わせなんかしていなかったから、チョウジがオレの発言に疑問を感じたのも無理はない。
もしかして約束を忘れていたのでは、と不安が顔中に広がっていくチョウジに、違う違うと片手をひらひら振って否定する。

「そんなんしてねーよ。それより早く行こうぜ、いのの機嫌損ねると厄介だからな」

口元にニッと笑いを忍ばせて言えば、チョウジもそれを受けて笑顔を見せる。
そしてその笑顔の後ろに流れる白い雲。
今日はいい天気だ。
こんな日は、ポテチでも食べるチョウジの横でさっきみたいに昼寝でもしていたいもんだが、今日ばかりはそうもいかない。


アスマからストラップを贈られて以来、いのの携帯は代替わりすることもなく無事に毎日を過ごしている。
今日はそのお返しを、ということで休暇を利用して(いのに脅され)集まる約束をしていたのだが。
オレとチョウジからすれば、この趣味の悪いストラップに対して何かを返すという発想自体がない。
がしかし、そこはいのに押し切られ、オレたちも同行する羽目になった。
そんなこんなで何だかんだチョウジと並んで集合場所に向かっているときだった。

本日二度目のアラーム。

手早く携帯を開きスヌーズモードを解除する。
それと入れ替えにいのから着信が入った。

「あ、シカマルー?あんたまさかバックレる気じゃないでしょうね。もうすぐ約束の時間なんだけどさぁー」

「今チョウジと向かってる。ほら、左手見てみろよ」

話しながら商店街の角を曲がれば、花屋の前で待機していたいのもこちらに気づいて通話を切りあげ走り寄ってきた。

「おっそーい!」

「まだ時間前だろうが」

「だからって女の子待たせるなんてどういう神経してんのよ。ったくアンタたちはだらしないわねぇ」

「集合場所がいのの家で自分より先に来いはさすがに無茶じゃ…」

「そりゃそうだけど!なんて言うの?もっとこう、意気込みみたいのないわけ、あんたたちは」

「あーはいはい、どうもすみませんねー」

「…シカマル、あんた絶対にやる気ないでしょ」

もういいからさっさと出発しよう。
先頭を切って歩き出したいのに、二三歩遅れてついていく。

何でだか、いのは張り切っている。
よほどあのストラップが気に入ったのか――まったく、女の趣味は分からない。

「ねえシカマル」

「んあ?」

ふいにチョウジが話しかけてきた。

「今の着信、音鳴ったっけ?」

「いんや、任務前に切り替えるのめんどくせーから、ずっとサイレント」

「じゃああれ、アラーム?」

「ああ、そうだけどよ…それがどうかしたのか?」

「ボクがシカマルのところに行ったときも、確かアラーム鳴ったよね。それからいのから電話がくる前も。普通の着信だと音が鳴らなくて気づかないから、その前に気づくようにアラームを設定してたとか?」

「まあな。チョウジはともかく、いのは電話出ないだけで怒りだしそうだからな」

「なんで分かったの?」

「何でって、そりゃあ…」

何年一緒にいると思ってんだよ。

お前は根っからの優しい奴だから、オレが遅れないように様子を見に来るだろうことも。
いのが素っ気ない態度を見せながら、しっかりアスマに感謝していることも。

んなモン分かるだろ、仲間なんだから。
いちいち言葉にするなんて七面倒くせーことしねえでも、伝わってきちまうんだ。

「そりゃあ?」

「勘だよ、勘」

照れ隠しに頭の後ろで腕を組み、チョウジの方に顔が向かないよう頭上の雲を見上げる。
ふうん、なんて相槌を打ちながら、それ以上聞いてこないチョウジもきっと、オレが答えなかった本当の答えに気づいてるのかもしれない。

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