掌編小説 | ナノ


▼いの×ストラップ

今持っている携帯に不満があるのか。
その問いに対し、第十班の紅一点、山中いのはこう答えた。

「はっきり言って、個性ないのよねェ」

即答である。
いのはそれだけ言うと、つまらなそうに自分の前髪をいじり始めた。
そして彼女のあっけらかんとした回答に口をあんぐりさせて固まるのは、同じ班員のシカマルとチョウジだ。

「ハァ?仕事道具に個性求めんなよ、めんどくせー」

先に回復したシカマルが呆れてそう言えば、いのは心外だという顔になり、未だ硬直状態のもう一人に「チョウジなら分かるでしょ!?」とふいに話題をふる。

「え、な、何が?」

チョウジ、慌てる。

「だーかーらー!どうせ食べるならおいしい方がいい。それと同じでさ、私もどうせ持つなら可愛い方がいいと思うわけよ。チョウジなら分かってくれるでしょ?」

「確かに、そう言われると説得力あるね」

食べ物絡みの力説に思わず賛同しかけたチョウジであったが、頭をよぎるのは先代のいのの携帯。
彼女のいう個性を追求し、全体をデコレーションされたその携帯は――操作キーにまで貼りつけられたビーズのせいで、画面が割れてしまった。
おかげで修理に出す間、任務連絡が上手く回らず迷惑したことこの上なかったのはつい一週間前の話。
これで五台目の被害だったという。

さすがにやり過ぎたと自覚はあったものの、しかしそれでもいのは懲りずにまた何かを企んでいる。
長年付き合ってきた幼なじみの二人はそれを嗅ぎつけた。
そして先回りをして質問すれば、あの回答だ。
反省はしていなかったらしい。

仕方ない、次の手だ。

こうなる事まで予測していたのか、二人は速やかに行動を移した。
シカマルが隠しておいた包みを取り出し、チョウジ経由でそれはいのの手元に渡る。

「アスマ先生が買ってくれたんだよ」

いい加減、新規登録の操作が煩わしいという上司のため息まで聞こえそうだった。

予定のなかったプレゼントに首を傾げながらも、いのはその包みを開けた。
ひしゃげた袋の中から現れたのは、木彫りのストラップが現れる。

「…猪?」

「そ。で、オレは鹿」

「ボクは蝶」

「趣味悪いからよ、本当はつけたくなかったんだが…」

猪鹿蝶――それは花札の決め札のひとつ。
しかしこの十班には、それ以上の思い入れがある。

「これで個性も出るよね」

そう言って無邪気に笑うチョウジに、

「まあいっか。しばらくはこれで我慢しとくわ」

空を仰いだいのは、緩む頬を隠しながらそう答えた。

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