▼紅×着信履歴
アスマの任務も順調にいけばもうすぐ終わりのはずだ。
だから一足先に約束の居酒屋に入り、軽めのお酒を頼んでおいた。
賑やかな客が入ってきたのはそのすぐ後。
「紅ー、今夜飲もう!」
暖簾をかきわけ登場したのは、特別上忍で酒飲み友達でもある、みたらしアンコ。
私が店に入るのを見ていたのかろくに店内を見渡さずに叫んでいる。
つい最近まで長期任務についていたのか会うのは久しい。
キョロキョロしていた彼女はようやく私を見つけると、隣の椅子をひいて無許可で席についた。
普段から空気を読まない性格なのはそうだが、それにしても気がたっているのか動作の一つひとつが荒々しい。
「なにあんた、ずいぶん機嫌悪いわね」
「ちょっと同期の奴がイチャついてんの見たら頭にきて…」
ぶん殴ってきちゃった、そう続ける。
やや声を潜めてはいるが、それほど悪いとは思っていないだろう。
その証拠にさっさと会話を打ち切り、さっそく巡回していた店員を引き止め注文をしている。
「ここんとこ潜入捜査ばっかりやらされて、男なんか出来るかってのよ。だから今夜はやけ酒、付き合ってくれない?」
「いいけど、アスマも来るわよ」
お前も裏切り者かっ、と笑いながら頭を小突いてくる。
「誰か他に適当な人いない?」
「そうね、そういえばカカシとゲンマが待機所で暇そうにしてた気が…」
「よし、呼ぼう。じゃあ携帯貸して」
「嫌よ」
「いいじゃない。今使わないで何が文明の利器よー。待機所まで呼びに行くの面倒臭い」
「自分のを使えばいいでしょ」
「任務帰りに直接紅に会いに来たの、持ってるわけないじゃない」
そう言うと、アンコは私の携帯を奪った。
止めるのも面倒で好きにさせてやる。
しかし携帯を操作していたアンコの顔がどんどん険しくなっていく。
どうしたかと聞こうと思ったところで、アンコがいきなり立ち上がって叫ぶ。
「なにこの着信履歴は!?アスマばっかじゃない、この色ボケカップルめッ」
やばい、思った瞬間、止める間もなくアンコが手にしていた私の携帯を床に叩きつけた。
パリンと小気味いい音がして、割れた破片が飛び散る。
「あー…」
もはや使い物にならない携帯を、私はやけに冷静に見下ろしていた。
着信履歴からかけようとするから、こうなった。
そんなやり方では、一生かかってもアスマ以外にかからない。
小さくグラスを傾ける。
カラン、氷の揺れる音がした。
「あ、ごめん紅…怒った?」
無口な私を前に、アンコが今さら自分の愚行を思い返し顔色を悪くしている。
うるさい彼女が久々にしおらしくなるのが面白くて、私もつい悪ノリする。
「べつに怒ってないわ」
「本当、に?」
「ええ」
「よかった…」
ほっと胸を撫で下ろしかけた彼女に、にっこり微笑む。
「ちょうど今度アスマとお揃いで買いに行く予定だったの」
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