掌編小説 | ナノ


▼シノ×着信音

寒さも深まり出した木ノ葉の里。
雪すら降りだしそうだなこの寒空の中、任務帰りの八班が耳にしたのは何とも場違いな虫の鳴き声だった。

「蝉?」

初めに反応したのは耳のいいキバだった。

「蝉、かな?」

次にやや大人しめのヒナタの声が続き、

「アブラゼミ、だ」

シノの断定に二人が顔を見合わせた。

そしておもむろに携帯を取り出したシノを見て、ああそういうことかと納得する二人。
一風変わった蟲使いのチームメイトが、着信音を虫の鳴き声に設定することなどさして驚くものでもなかった。

「もしかして、私たちみんな虫の声だったりするのかな?」

「ああ、そうだ」

「えっと、アブラゼミは誰?」

珍しく興味津々といった様子のヒナタが、画面を目に操作を続けるシノに問うた。
ナルトだ、とシノが即答すると、ヒナタはやっぱりといった表情で小さく微笑む。

観察力のいいシノは実に特徴を掴んだ選択をする。
じゃあ誰それはどんな虫か、なんて会話を楽しみながら一向が歩いていると、しばらく黙り込んでいたキバがはたと思い出したように言った。

「でも動物と違って鳴く虫ってそんなにいねーんじゃねぇの?」

「オレの友だちもお前と違ってそんなにいないから平気だ」

シノはたまに気にしていない調子でヤキモチを焼く。
その面倒くさい切り返しに辟易とするキバ。
険悪な空気を敏感に感じ取ったヒナタは慌てて話題転換を試みた。

「あ、そういえばシノ君、私の着信音って何…かな?」

「ヒナタはスズムシだ」

「わぁ、素敵、ありがとう」

どこかぎこちないヒナタの笑顔。
しかし一度払拭されたはずの空気が――

「じゃあオレは?」

キバの問い掛けで再び舞い戻る。

「……夏の虫だ」

「何だよその間、しかも曖昧な答え。オレもナルトみたいな蝉系か?」

「いや、違う」

「でも夏に鳴く虫って大体そんなもんだろ?」

「いや、まだいる。耳元で煩わしい、まさにキバにうってつけの――」

そこまで言うと、察しのいいヒナタの顔が硬直した。
そして最悪の事態を回避しようと彼女にしては大胆な行動に出る。

「わ、わー!!もう冬だし陽が落ちるのが早いねっ」

「んだよ、ヒナタ。いきなりやけにテンション高く…」

「早く帰らないとお父様に叱られちゃう!キバ君、送っていってくれるかな?」

「だから二人で送ってる最中…」

「今日はキバ君と赤丸と、走って帰りたい気分だなぁ!」

言うが早いかキバの手を取り走り出すヒナタ。
いきなり始まった追いかけっこに赤丸はわけも分からず嬉しそうに駆け出す。
瞬く間に、夕闇に消えていく二人と一匹。
残されたシノは、

「察しがいいな、ヒナタは」

そうつぶやくと一人家路についた。
数分後――季節外れにも蚊の鳴く声がして、シノの携帯が震えた。

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