掌編小説 | ナノ


▼第六十三夜 「二俣の女」

そういえば私がアカデミーに入ったばっかりの頃、花子さんや口裂け女と一緒に、こんな噂が流行ったんだけど…知ってるかしら?

夕暮れ時になると、ある条件を満たした場所に、長い髪の女が現れるんだって。
その条件っていうのが、二俣に分かれた道。
里中、至るところでその女は目撃された。

なんでおんなじ女って分かるのかって言ったら、その女ね、いつも一本道の方から歩いてくる人に向かって、背を向けてうつむいているんだって。
どっちの道に進もうか迷っているように、そこからじっと動かない。

でも絶対、話しかけちゃいけない。
その女はこの世のものじゃないから。
だって分かれ道の先から来る人には、その女は見えないんだもん。

それでね、あるとき一人の男の子がこう思ったの。
道の先から来る人に女は見えないなら…一本道から歩いて女を通り越し、それから振り向いたときには見えるのかな、って。
分かれ道から見るんだから見えないって子と、一度見てるんだから見えるって子の、半々に分かれた。
だから試してみようって話になった。

クラスの男の子が数人集まって、女がよく現れるっていうスポットを何ヶ所か回った。
日が暮れてからの行動だからチャンスはあまりない。
女に会うことすら難しいって、皆がそんなふうに気楽に構えていた。

だけどね、会っちゃったんだって。
川沿いの道から商店街に向かう、その途中で。

女は噂どおり、道の分かれ目で背中を向けて立っていた。
暗がりでじっと動かない。
それだけでもかなり異様で、いざとなったら、誰も振り返ろうとしなかった。
でもそれでよかったのよ。
それから数ヶ月経って、こんな噂が流れたんだから。

女を通りすぎたあと振り向く。
うつむいていたはずの彼女と目が合うとね、親の仇かってくらいに睨みつけられたらしいの。
そしてまっすぐ指をさされ…。

――それを見た隣のクラスの子、次の日から不登校になっちゃったんだって。

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