掌編小説 | ナノ


▼第六十二夜 「緑の人」

アカデミーに通う前、近所の子供らでいかだを作ったことがあった。
親が伐採した竹を持ち寄り、年上が率先してそれを割り、総がかりでロープで固定していく。
見栄えはなかなか立派だった。
川沿いまで運び、皆が喜々とした顔を見合わせる。

さあ、明日が出航だ!

家についた時にはもう夕暮れ時だった。
それから夕食までの間を筋トレをして過ごしていると、にわかに外が騒がしくなった。

大変だ、子供が落ちたぞ!

何事かと大人が飛び出す音が、そこかしこから聞こえた。
オレも一緒に外をうかがった。
中には忍もいたが、助けに行こうにも、場所が分からなかったせいか、人波は途方に暮れて声の主を探していた。
何も異常がないことから、そのうち誰かの悪戯だろうという結論になって、大人たちが引き上げようとする雰囲気を感じた。
早く入りなさいと促される子供が目を合わせ、ほとんど確信を持って川へ走った。

川にはいかだが浮いていた。
正確にはいかだだったものだ。
ロープが解けて解体しかけていた竹に、見かけない子供がしがみついて流されてきていた。

後を追いかけてきた大人が追いつき、子供はすぐに救助された。
タオルに包まれた子はしばらく震えていた。
しかし少し落ち着いて、周りを見回す余裕が出ると、オレたちを見つけたようだった。
まだおぼつかない足取りで近づき、しきりにごめんなさいと、何故かありがとうを繰り返す。

どうやらいかだを運んでいる姿を見かけ羨ましくなったらしい。
人がいなくなったところを見計らって川に浮かべ、しかし耐久性のなかったいかだはバラけた。
上流から溺れながら流されてくる間、緑の人影が押し上げて竹を掴ませてくれたと。

――その子はオレをまっすぐ見て礼を言った。

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