▼第六十一夜 「塀の向こうの庭園」
まだ下忍になったばりの頃。
民家が連なる場所で、近所の子がよくボール遊びをしていた。
庭にボールがはいっては、こっそり忍び込んで取ってきているようで、大人にこっぴどく叱られている現場を見たことがある。
その日も、高い塀の先に、ボールを落としてしまったらしい。
塀には茂みの影に崩れている場所があった。
それを知っている子たちが、潜りこもうとしている最中だった。
さすがに叱られたばかりなのを知っていたから、オレは止めたんだ。
でも、この先に庭園があって、すぐ手の届きそうなところにあるからって、子供も譲らない。
仕方なく、オレが家の人に事情を話すことにした。
そして裏手にあるだろう玄関に回ったとき、初めて気がついた。
そこに家なんかなかった。
塀で囲まれた、ただの売り地だった。
まっさらな土地には、庭園も見当たらない。
何かおかしい。
一度元の場所に戻ったオレは、子供がボールを持って立っていて心底驚いた。
塀の隙間からしか見えない、あの庭園に入ったのか。
子供たちを問いただすと、そうではないと言う。
オレが行った後も、塀の隙間からボールを見ていたら、小さな女の子がやってきて、こちらへ投げ返したらしかった。
――そうは言われても、もう一度のぞいて確かめる気にはなれなかった。
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