掌編小説 | ナノ


▼第五十八夜 「生き霊」

霊って言ったら、どうしても死んだ人って思いがちでしょうね。
だけど生きている人だって霊にはなる。
幽体離脱とか、そういうことではなくて、生き霊をとばすのね。

昔むかし…里でも評判の若い娘がいた。
それはそれは、何かと目立つくノ一だったそうよ。
と言っても、騒がしいという意味ではなく。
いつも誰かしらに言い寄られていたんだけど、ことごとく振っていたそう。

だけど魔性の女とは違う。
話す人によって態度が変わらない、ただの気立てのいい美人だった。
だから誰とも付き合わないのはきっと、心に決めた人がいるからだろうって、そう囁かれていたのよね…。

それなのに、同年代で有望株だった男も振ってしまった。
いよいよその娘が誰を好きなのか分からない状況になり、周囲は今にも娘を問い詰めようとしていた。
プライベートまで踏み込まれるのを嫌って、娘は気が滅入っていたらしいわ。

そんな時だった。
ある女性が体調を崩した。
その人は娘の上司の奥さんだった。

娘は奥さんが体調不良の間、家事ができない上司のかわりに甲斐甲斐しく世話を焼いた。
そんな姿を見ていたら、色恋沙汰に巻き込むのも気が引けて、自然と男性陣の気も収まってきた。
娘はとても安心して、そのひとときを幸せそうに過ごしていた。

ただね、倒れた奥さんには霊感があって、快復したときにこう言ったらしいの。
夢の中で女がずっと首を絞めてきた。
若くてきれいな女だった。

――そんなことがあって、ようやく里の皆は察しがついたそうよ。

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