▼ 7.不可避の選択 (1/16)
水面が微かに揺れる。
その音に、波の抵抗でオールが軋む音が重なる。
緩やかに揺れる舟の上、タズナ一行に船頭を含めた七人が乗っていた。
「すごい霧ね。前が見えない」
幾分か舟が漕ぎ進められたとき、そうつぶやいたのはサクラだった。
無音に近い状態、その声は大きく聞こえた気がしたが、それもすぐに静けさの中に溶け込んでいった。
霧隠れの忍と一戦を交えてから、まだそれほど時間は経過していない。
あの後、ナルトの決死のパフォーマンスも手伝って、任務続行になったはいい。
しかしサスケにはいまいち状況が掴めていないようだった。
それはサクラも同じで、カカシとソラが何かを隠しているのを感じ取り、よそよそしく距離を置いている。
探りを入れたときに一刀両断されてからはカカシに話しかけることもない。
カカシもそんなサクラの変化に気づいたのか、わざわざサクラと対角線になるようにして舟に乗り込んだ。
虚偽の任務内容を申請した依頼人。
口を閉ざした異世界の訪問者。
下手な探りを視線だけで制す上司。
おろおろするばかりのくノ一。
勢いだけで突き進む手負いの考えなし。
どうにも苛立ちを隠せない期待の新人。
まるで水面下でもがく水鳥のように、見えないところで激しい心理戦が行われていた。
どことなくぎくしゃくした集団を乗せ、舟はゆっくりと進んでいく。
そんな中、ナルトだけが次なる刺客だけに関心を向けていた。
珍しく大人しいナルトは、真っ先に舟に乗り込むと先端を陣取り、腕組みをしながら行く手を見つめている。
霧で覆われたその先には、何が待ち受けているのか――。
これだけ深い霧の中でもはっきり見える黄色を、サスケは睨むように見据えていた。
そのことにサクラだけが気がついていた。
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