マギ | ナノ


燃え尽き炎帝と失神皇后

 嗜虐性を剥き出しにした笑みを浮かべた紅炎の手際はとても鮮やかだった。手際良く身体を拘束された珂燿は紅炎の大腿の上で腹這いにされ、腕を拘束されたまま秘所を掻き乱された。
 そのまま……珂燿にしてみれば気の遠くなるような時間、快楽を味わわされ、紅炎の右手は元より、紅炎が腰かけている牀さえもしとどに濡らしてしまった。泣こうが喚こうが一向に緩まらない責苦に、珂燿は気が狂いそうになる。
 そうして、一際大きな珂燿の嬌声を聞いてそろそろかと紅炎が思った矢先に、唐突に彼女から力が抜けた。糸の切れた木偶のように身体が弛緩している。
 怪訝に思いながら指を引き抜いた紅炎は珂燿の身体を裏返し、その名を呼んだ。

「珂燿?」
「…………………」
「おい、どうした」

 羞恥と快楽に上気していた珂燿白い顔が、一気に血の気が引いて青くなっていた。
 これは不味いと本能で察した紅炎は、珂燿の息を取り戻そうとその肩を抱きよせて……。

「目を覚ませ」
「ぶっ!?」

 叩いた。
 その横っ面を、思いっきり叩いた。
 気持ちの良いくらいの破裂音と共に呼吸を再開させた珂燿は、噎せながら生気の抜けた瞳を紅炎に向けた。

「大事ないか?」
「あり、あります……気を違えて、死ぬ……」

 常人と身体の作りは同じものの、それを動かしている機構が違う。快楽に発狂しかけてヒューズが飛んだ状態になった。意図せずに飛んだせいで、身体のルフを留めておけずに散らしかけたのだ。
 紅炎の闘魂……いや、気合い注入でなんとか意識を取り戻せたからいいものの、あのままだったらおそらく一度死んでいた。

「こんな、下らないことで、死にかけるなんて……」
「お前は変な所で脆いな」
「貴方が私の禁忌を尽く触っているんですよ……っ!」
「……涙だけではなく、鼻も垂れているぞ」

 ぐい、と旗色の悪さに話題を逸らそうとした紅炎が乱雑に拭ってやれば、鼻頭まで赤くした珂燿が鼻垂れに反論する。

「人間の身体なんだから、泣いたら鼻水くらい出ますってば」
「…………側室に縋り付いて泣かれたことは何度かあるが、あれらは鼻は垂らさなかったと思うのだが?」
「それは嘘泣きだからでしょうね」
「なるほど、な」

 紅炎の計画通りに気を逸らしてくれた珂燿の言葉に、彼は納得した。

「しかし我が君。側室を捕まえてあれらとは……」
「囂しい側室はその括りで構わん」
「ならば私も口を噤んだ方が良いですか?」
「いや……」

 余計な一言で終わることが多いが、珂燿はよく紅炎にものを申している。不愉快ならば控える、とした珂燿の言葉を紅炎は否定した。
 そして、青い瞳の中を覗くように、紅炎は珂燿を見つめる。

「お前の物言いや態度は昔から気に入っている」
「それは……ありがとうございます。しかし昔から、ですか? 以前は紅炎様とは余り関わらないようにしていた記憶しか私は……」
「そうだな。立太子する前も、後も、お前は俺を避けていた」

 紅炎の視線に、ほんの僅かながらも険が混じる。珂燿は俯いて視線を泳がせたが、真実であるし、紅炎も知っているのだから認めるしかない。

「苦手、でしたので……」
「それが目についてな」
「あの、なにやら……気に入るというよりも若干苛立ちも混じっていませんか?」

 自身の感情を吐露してみれば、初めて他者からの指摘を貰い、紅炎は瞠目した。冷静に考えてみれば、視界に入ればその姿を追った一因としてその感情もあったかもしれない。

「……言われてみればそうかもしれん。だか、気にかけていたのは本当だぞ」
「避けられているのに惹かれるとは、実は隠れマゾ……?」
「いつかその細い顎を鷲掴んで青い眼を俺に向けさせて屈服させてやろうとだな」
「失敬、純正サドでしたね……」

 ちょっと血迷った。
 紅炎に被虐要素なんか微塵も無かった。あるはずが無かった。
 珂燿は今更ながらに、己の身の処し方を案じた。

「だったら、私は従順になった方が楽なのやも……」
「今更か? それは側室で間に合っている。それに、今からそういう態度を取ろうものなら、俺は…………お前が反抗せざるを得なくなるまで責めるぞ」
「それじゃあもうどうすればいいんですか!」
「そのままでいればいい」
「は……」

 紅炎の言葉に気勢を削がれたらしい珂燿の口から、困惑した呟きが漏れた。

 従兄弟の庭に咲いていた白い花を、無理矢理手折ったのは己だ。儚い花かと遠くから眺めていた時は思っていた。一時の充足を得るだけでもと非情な事を思いもした。けれど花は、そのまま枯れることなく傷付けたはずの手の中で懸命に咲きつづけ、引き付ける芳香を放っている。
 だから、このままでいてくれるのならば、それで重畳なのだ。

「俺はそのままのお前がいい」
「紅炎、様」
「なんだ?」
「いえ……なにも、申し訳ございません」
「そうか」

 幼子を宥めるように、ゆっくりとした一定の感覚で背を撫でられる。先程は執拗に嬲ってきた酷い手だというのに、珂燿は慰撫されてしまいその心の中には安堵しか生まれない。
 即物的だな、と思いながらも身体に力が入らないのを良いことに、珂燿は珂燿の全てをそのまま受け入れてしまえている紅炎に身を預けたままでいた。

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