煌びやかな街並み


 時は既に夜にもかかわらず、街の中はとても賑わっていた。それこそ黄色やオレンジ色に輝く暖かき街灯の元、小さな子供達がはしゃぐようにして通りを駆け回っている。

 恐らくこの場に時計があれば現在の時刻が何時なのかを調べることができるのであろうが、あいにく今は手持ちが無い。

「祭りでもやってるのか……?」

 彼は一人呟くと、行く宛も無くフラフラと街を歩き始めた。

 しかし通りにあるのはパン屋にケーキ屋におもちゃ屋といったものばかりで、一見人が住んでいるような家屋は一つも見当たらない。

 それにおかしいのは、街には誰も“大人の人間がいない”ということだった。

 辺りをよく見回してみれば、見渡す限りいるのは子供、子供、子供。自分以外の大人の人間の姿は他に一つも見当たらなかった。

「ったく、親はどんなしつけしてるっつーんだよ……」

 まるで遊園地のようなテーマパークを彷彿させる、明るすぎる程の街灯達に混ざってどこからか聞こえてくる楽しげなメロディ。

 その音楽に合わせて子供達が陽気に歌いに踊り、楽しげに街の中を彩っていく。

 ――この感じ、どこかで見たような気が……

 そんな思いをよぎらせしばらく周りを見渡しながら歩いて行くと、ふとした拍子に足から腹にかけてドンとした衝撃がぶつかった。

「うぉっ、すまねぇ!ちょっとよそ見してた。怪我は無い……」

「お兄ちゃん、だぁれ?」

 ぶつかったのは、やはり子供だった。

 まだ十歳にも満たないのであろうその子供は、大きな瞳を不気味な程に見開いて、今しがたぶつかったばかりの青年の顔を見上げている。

「?おい、お前……っ!?」

 そして、彼が手を出したと同時に感じる幾多の視線。

 気が付けば、彼の周りは数多の少年少女達に囲まれていた。

「どういうことだよ……!?」

 突然現れた子供達に戸惑いを隠せず、彼はキョロキョロと辺りを見回す。

 しかしもちろん彼らの輪の中に出口など見つかるはずはなく、ただどうしようもない不安と恐怖感だけが彼の周りに浮遊する。

 すると何か思うことがあったのか、先程彼にぶつかってきた少年が問い掛けてきた。

「お兄ちゃんは……おとなの人?」

「あ、あぁ……そうだが」

 子供相手に情けないと思いつつ、少々弱腰になりながらも青年は返答を返す。

 しかしその言葉を聞いてや否や、周りの子供達は驚いたように目を広げると、一人言のように、または普通に友人と世間話でもするかのように一人、また一人と言葉を呟き始めた。



「大人だ……大人の人間がいるぞ」

「食べられちゃうよー!」

「ほら、今だってその子を食べようとしていた!」

「ここは子供の国なのに……」

「フックの仲間なんじゃないのー?」

「こいつを連れてお城に行こうよ」

「それならピーターに言わなくちゃ」

「そうだ、ピーターなら何とかしてくれるよ」

「僕らのピーター!」

「ピーター!」

「ピーター!」

「ピーター!」



 彼らはそう叫ぶと同時にワッと青年の周りを囲うように集まり、押し固めることで彼の逃げ場を無くそうと近寄ってくる。

「な、なんだよお前ら!くそっ、寄ってくるんじゃねぇ!」

 力の差ではまだこちらに分があるためか、しばらく奮闘しているうちにどうにかしてよじ登ろうとしてくる少年や、前を塞ぐ少女らをどかして輪の外に出ることが出来た。

「大人が逃げるぞ!」

「追いかけろー!」

 しかしそれでもなお自分を捕まえようとしてくる子供達に、青年はたまらず脱兎のごとくその場を駆けて逃げ出す。

 逃げる宛など無い。

 ただ一心不乱に、彼は走り続けた。

 だがそれとは裏腹に、どれだけ走っても彼らを撒くことが出来ず、度々先回りをされては危ういところでまた捕まりそうになる。

「くそっ、どこまで追い掛けて来るんだよ!」

 いくら体力のある彼だとしても、そろそろ限界というものが見えてくるものだ。

 そしてまたそれから数分が経過し、行き止まり近くにある角を曲がった時――突如隣接していたパン屋の中から手が伸び、物凄い力で彼の襟首を掴み店の中へと引きずり込んだ。




  



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