::バレンタインデー小話(SA編)

「あら?あれ……」

 まだまだ肌寒い季節。不思議の国の中央にそびえ立つ城の中、女王のもとへと向かっていたユニコーンは、途中にある王の間の前で不審にうろつく男に目を止めた。

「……レオ。あなた何してるの……?」

「ふぁっ!?あ、あぁ、なんだ、誰かと思えばニコちゃんか!――いや、べ、別に何でもない。ちょっと王に野暮用があってだな……」

「ふうん?野暮用……ね……」

 明らかに狼狽する男の反応を見て、ユニコーンは直感的にそれが嘘であると気付く。大体自分が話し掛けた地点で反応が大袈裟すぎるし、何より今彼が何かを後ろ手に隠したところを見てしまった。

 それにそもそも、いつもなら用など無くともウザいくらいに王に付き纏っているレオのことだ。今更野暮用なんて嘘をついたって、それがすぐに見破られるのは誰の目から見ても分かることなのだ。

 ――ちょっと問い詰めてみようかしら……

「ねぇ、レオー?」

「な、なんだよ……」

「あなた、さっき何か後ろに隠したわよね?一体何を隠したのかしら?」

 優しく肩に手を置き笑いながらに問い掛けてみれば、いつもとは違う彼女の対応に驚いたのか、レオはビクリと肩を震わせて恐る恐る視線をこちらに向けた。どうやらいつもは脅してでも聞き出してくるのに、こうも優しくされるとそれはそれで逆に怖いらしい。

「別に俺は何も隠してなんか……」

「レオ」

「うっ……だって……」

 わざと顔を背けて目線を逸らそうとするので、顎を掴んで無理矢理に戻してやれば、今にも泣き出しそうな顔でレオが呟く。彼はそのまま観念したのか、手にしていた小包をユニコーンの目の前へと差し出した。

「あら?何この汚い箱」

「汚いだなんて失礼だな!よく見ろ!頑張ってラッピングしてリボンまでしたんだぞ!」

 確かに不器用な彼なりに頑張ったのだろう。赤い包装紙とピンクのリボンに包まれたその箱は手に乗るほどの小ささで、見た感じではそこまで重そうなものは入っていない。

 しかしなぜそんなものをレオが持っているのだろう。別に今日は王様の誕生日でもないし、そういうイベントごとがあるとすれば、可能性のあるバレンタインはついこの間終わってしまったし……

「まさか男のあなたが、今更遅れてバレンタインって訳じゃないわよね……」

「いや、確かにその通りだが?」

「えっ……本当に?」

「あぁ。ニコちゃんの言う通り、この箱の中にはチョコレートが入っている。先日王が甘い物を食べたいと言われていたのでな。昨日は徹夜して作ったんだぞ!」

「そ、そうなんだ……」

 いわゆる逆チョコというやつだろうか。さっきとは打って変わって満面の笑みでそう言うレオに、どこか褒められて喜ぶ犬のような錯覚を覚える。本当にコロコロと表情の変わる男だ。

「だが日にちも過ぎてしまったし、今更ナチュラルにバレンタインというのもどうかと思ってな。それでこうしてここで考えていたところに、ちょうどよくお前が来たって訳だ」

 ドヤ顔でそうは言うものの、どこか間違った悩み方をしている彼に否定する気も起きず。そもそもそこまで悩むのなら、最初から包まずにティータイムの時にそっと出せば良いものを。

 だが、そういうところがこの男の美徳でもあるのだろう。珍しく感心してしまったユニコーンは、頷きながら一つだけ彼に良いことを教えてあげることにした。

「あら、そうだったの……。でもね、レオ。王様ならそのお部屋にはいないわよ?」

「……へ?」

 また表情が変わり、今度はとんだアホヅラ。国一番の剣の腕の持ち主が聞いて呆れる。

「さっき廊下ですれ違ったのよ。出掛けるからってあなたのこと探してたみたいだけど……。こんなに待たせて、そろそろ怒ってるんじゃ――」

「ちょ、そ、そういうことは先に言えっていうんだよ!ニコちゃんのバカぁー!」

 彼女の言葉を遮ると共に血相を変えて走り出したレオに、ユニコーンは手を振りながら「頑張ってねー」と相手に聞こえない程度に一人呟く。

 きっとこれから彼は、ハートの王に怒られながらもなんとかあのチョコを受け取ってもらおうと奮闘するのだろう。クールな彼女がそれを受け取るのかは分からないが――それでも大丈夫だろうと思い、ユニコーンは未だ待つ女王のもとへと急ぐのだった。


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ユニコーン+レオ→ハートの王
本当は女王様×ヘタレとかで書きたかったけど、なんだかんだでこの二人。バレンタイン用に間に合わなかったやつをちょっと書き直しました。
珍しくレオさんがまともだった(驚)

2014.02.18 (Tue) 00:50
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