::服を着て! 「このバカァーッ!何回言えば分かるのかしら!せっかくマスターが新しいお洋服をくれたんだから、そんなボロ切れじゃなくてこっちを着たらどうなの!」 「だ、だってそんなにカッチリした服ってなかなか着ないし、落ち着かないから……」 「だから、それに慣れるために着るんでしょう!今日という今日は絶対着てもらうんだからね!」 一方は壁際まで追い詰められた涙目のミッチェルに、スーツを持って相対する屋敷の使用人ミーシャ。ミッチェルがこの城に住むことになって早数ヶ月が経過し、この光景ももはや日常の一環となっていた。 ことの発端は、ミッチェルの服に対する好き嫌いの激しさである。今までは布切れのような擦り切れた黒い服を着ていた彼にとって、一般の人々が着るような服はどうも居心地が悪いらしい。しかしそんなにも拒否反応を示す彼に、毎日迫るように服を着せようとするミーシャもなかなかの精神力の持ち主だ。 「……どうしても着ないって言うなら、あなたの今日の晩御飯は抜きにするわよ!」 「そ、そんなぁ……!」 ご飯抜きの言葉に、ますます視線を泳がせるミッチェル。どうやら彼の中では現在、かなりの葛藤が行われているらしい。 「うぅ、どっちも選べないよぉ……。助けてムーサァ……」 薄々感づいてはいたが、ついにこちらにまで被害が飛んできたか。反対の壁際で一人傍観を決め込んでいたムーサは、突き刺さる懇願の眼差しに思わず目を逸らす。助けてやりたいのはやまやまなのだが、その隣にいる双子の妹の気迫には勝てる気がしないのだ。 それから二人の視線を浴びながらも、助けてやりたいような気持ちでたっぷり一分感の時間を取って考えた結果、ムーサはすまなそうに眉を潜めてそちらに顔を向けた。 「ごめん、ミッチェル。やっぱりどう考えてもミーシャには勝てる気がしないや」 「え、えぇ〜!?」 「そう言うことよ、ミッチェル。さぁ、あっちで一緒にお着替えしましょうね〜」 「うわあああぁぁ!やだあああぁ!」 「……」 最終的にはずるずると引っ張られる形でショールームへと連れて行かれることとなったミッチェルに、今晩は何か美味しいものでも作ってあげようと、ムーサは無言の決意をその青年へと送ったのだった。 ¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨ ミッチェル&ミーシャ&ムーサ とりあえずミーシャは書きやすい!地の文はだいたいムーサが思っている心の声、というところでしょうか… 使用人コンビ可愛くて好きだよ! back |