::バレンタインデー小話(DD編)

 二月十四日、バレンタインデー。トリーア国内でもその行事は人気のある一大イベントとして取り上げられており、この時期は特に街中が賑やかになることもあってか一種のお祭り騒ぎのようだった。

 もちろんその興奮はエキドナ本部の中でも冷めることは無く、あちこちからチョコレートの甘い匂いが漂ってくるのも時間の問題である。

「……ほう、そうかぁ!だから今日はみんな、朝からこんなに浮かれてたんだなぁ。なるほどチョコの日か……それは浮かれてしまって当然な訳だよ」

 バレンタインデーという存在を知らなかったらしいローゼは、大体の内容を把握したと同時に嬉しそうにそう言った。もとからチョコレート好きな彼のことである。それはさぞかし素晴らしいイベントだと思ったであろう。

「ロゼ先輩……知らないなら知らないで、どうして既にそんなに貰ってるんですか……」

「ん?いや、だって若い学生の子からご婦人の方々まで、みんな俺に貰ってほしいって言うもんだからよぉ……。断るわけにもいかないだろ?チョコだし」

「いや、まぁそれはそうなんですけどね……」

 話が通じないと分かったフロリアンは、諦めたように目線を逸らして足元の小石を蹴った。これだからナチュラルにモテてしまう男は困るのだ。それも無自覚にモテるとはこの上なくタチが悪い。

「まぁとにかく。チョコが食べたいなら俺がいくらでも買ってきますから、ひとまずそれは持って帰って……」

「あっ、いたいた!ローゼー!」

 これからのことも考えて説得をしようとするフロリアンの言葉を遮り、誰かがこちらへと駆けてくるのが遠くに見える。

「……おぉ!エルザじゃないかぁ!おーい!」

「チッ、また面倒な女が来たもんだよ……」

 ニコニコしながら手を振るローゼを横目にフロリアンが舌打ちをするが、エルザはあえてそれは無視したままに彼らのもとへとやって来た。

「もう、ローゼのこと探してたのよ?……はい、これバレンタインのチョコ。今年は張り切ってガトーショコラにしてみたの」

「本当に!?ありがとよ、エルザ!なぁ、今食ってもいいか?」

「えぇ、もちろん」

「……」

 パァッと目を輝かせてローゼがそう言うと、エルザも嬉しそうに彼の様子を見守っていた。しかし、隣で苛立ちを隠すことなくこちらを睨み付けていたフロリアンの視線に気付いたのか、彼女もまた表情を百八十度変えてそちらに視線を向ける。

 まさに火花が散るとはこのことだろう。幸せオーラ全開の男と、その横で睨み合う女と少年。端からみればおかしなことこの上ない。

「もしかしてフロリアン……自分の分がないからって、むつけちゃってるのかしらー?」

「はぁ?そんな訳無いでしょ。君の作ったお菓子だなんて、誰が口にするもんですか」

「あら、ローゼは美味しそうに食べてくれてるけど?」

「ロゼ先輩は特別にいいんだよ!」

 キャンキャンと吠えるようにお互いが食いかかるフロリアンとエルザ。この二人の闘争は、この後ローゼがさらなるチョコレートを求めて街へと行ってしまうことに気がつくまで、飽きることなく続けられていたという。


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ローゼ×エルザ+フロリアン
まさかの本編より先にコラムに登場DDメンバー。フロリアンも先輩大好きだし、エルザもローゼのことは凄く大好きだから、これもしょうがない!

2014.02.15 (Sat) 00:43
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