配属

訓練を始めてから4日が経った。
木から木への移動時にワイヤーが絡まることはほぼ無くなり、初日の時よりは上達していると言っていい。
初日に錬金術を使って驚かせたりはしたが、あれから彼らの指示も的確になり、素直にナナシが感謝を述べると、ナナバとゲルガーは笑顔を見せてくれるようにもなった。
そんな2人に基礎はまぁまぁだと頷かれ、昨日からブレードで巨人に見立てた的を狙う演習へ移行した。
だが、目標の弱点『項』を切りつけるための体重移動にはまだコツが掴めず、バランスを崩し木に激突することがしばしばだった。
ナナバ達のお手本は綺麗な弧を描き、素早く、無駄が無いものであった。

休憩のため、演習場と本部の間の階段に座り込みパンをかじる。するとハンジがやってきた。

「久しぶり!ナナシ!なかなかに顔が疲れてるね。傷が増えてるよ。」

わざわざ声をかけに来たのは、ナナバ達に対して要件があったためだった。そのハンジの後ろには何故か目つきの悪い黒髪の姿もある。
「ここに来たついでに君の様子も見ておこうと思ってね。リヴァイも居るしさ。」
そう言ってリヴァイを振り返るが、彼はハンジから顔を背けて面倒くさそうな顔をになるだけだった。

「じゃあ私とゲルガーは一足先に会議室に行ってくる。資料もまとめないといけないしね。」
「くれぐれも兵長には俺にしたようなことはすんなよ。お前の未来はねぇぜ。」
と言ってナナバとゲルガーの2人がこの場から離れる。

「聞いたよ〜?ゲルガーを真っ赤にしたってね。私も見たかったな〜、一体どんな術を使ったんだい?」

その質問には苦笑いで返すナナシ。
そしてこの後、ナナシはグズグズな動きを2人に披露することとなった。



「おい、コレはなんの冗談だ?」
「まぁまぁリヴァイ、ナナシはまだ立体機動装置に触れて4日くらいだよ?」
「・・・期間という言い訳は聞かねぇ。」

ナナシに厳しい視線が突き刺さる。本人も、今の現状にはヤキモキしている。あと3週間とちょっとで壁外調査なのだ。それでも飲み込みは早い方だと自分では思っている。

「頭ではどう動くべきか分かってますー。そんな睨まないでよ。」
「なんだとガキ、」
「うわ、怖。すぐ怒るじゃん。」
眉間のシワがより深くなったリヴァイをハンジが宥める。
「はいはい。どう動いたらいいか理解しているのなら簡単なんじゃないのかい?」
「いや、全然違うよ。体の動きは分かっても感覚を掴まなきゃ、頭で処理してる時間に私の体は木にドカーンッ。」

なるほどね、とハンジが理解を示す。アドバイスを送ろうと再びハンジが口を開こうとした時、ナナシの視界がグルンと回転した。

突然の反動に混乱する。加えて浮遊感と腰辺りに圧力を感じる。
腰に巻き付くは腕。
頭上から小さく聞こえる舌打ち。

「ちょっとちょっとー!どうしたのリヴァーーイ!君ナナシを攫う気〜〜??」

ハンジの呼び声が下から聞こえてくる。
なんとリヴァイの脇に抱えられ、宙に浮いていた。

そして更にハンジの姿が小さくなっていく。

実にトロスト区以来の抱っこであった。といっても、荷物のように担がれているだけだが。

「あの、コレは?」
「・・・経験した方が早ぇだろ。」

落ちんじゃねぇぞ?とリヴァイがニヤリと笑う。

やけに様になっている顔にムッとしたナナシだが、リヴァイがガスを思いっきり噴射し猛スピードで木の間を飛び回った。
「アアアアアア!!!!ハヤイハヤイハヤイちょ、アアアアアア!!!!」
「チッ、黙れねぇのか」
視点がグルグルと変わって気持ち悪くなる。彼に気遣いなんてまるでなかった。

落ちまいと咄嗟にナナシもリヴァイを掴む。これでは感覚を覚える前にゲボまみれになりそうだと思った。

ーー5分後。

「おかえり2人とも。」
「ハァッ・・・ウッ・・・・・気持ち悪い。」
ハンジの元へ戻って来る頃には気絶寸前だった。

「あちゃー、女の子にはもう少し手加減してあげなきゃリヴァイ。」
「手加減してくれる巨人が居ればな。」

そんな巨人が居るわけがない。
小さくため息をついたハンジは、未だリヴァイに担がれている私を木の根元に寝かせた。

「そうだ。ホントは明日言うつもりだったんだけど、明日からリヴァイは旧本部に行っちゃうし、私も少し顔出さないといけないから・・・うん、今言っちゃって問題はないね。これからのナナシ のスケジュールが決まったから手短に話すよ?」

なにやら訓練以外にもナナシはやることがあるらしい。ハンジにお礼を言いつつ上半身を起こして頷いた。

「立体機動にも慣れてきた頃合いみたいだし、訓練時間を削減する。午前に訓練を入れて残りは私の班と巨人の研究を手伝ってもらいたい。ちょうど巨人の捕獲に成功していてね。空いた時間で乗馬訓練。所属は私率いる第四分隊だ。よろしくね。」

巨人の捕獲。この世界の文明がどこまで発達しているか不明だが、早々に巨人本体を調べられる機会がやってきた。

「了解。ところで巨人の何を調べてるの?」

その一言で、一瞬時が止まる。
聞いてはいけない話ではないだろうが、チラッと横目でリヴァイを見ると「俺は忙しい・・・」と言ってさっさと去ってしまった。ハンジはリヴァイを無視してナナシの肩をガシッと掴む。

「・・・ナナシ!君は巨人に興味があると言っていたね。だから第四分隊に所属になったんだと思うんだけど、これから捕獲した巨人の所へ行かないかい?そうだよきっとそれがいい!君には訓練兵が教わる初歩的なところから話した方がいいよね。移動しながらでいいかい?まず・・・」

と、興奮した様子のハンジから怒涛の巨人解説が始まった。そして場所は移り、目の前には捕獲した巨人を繋がれている。が、ハンジの話はまだ終わらない。その話はナナシにとっても大変興味深く、ハンジの話を聞いては質問を繰り返していた。

そして少し離れたところで2人を眺める兵士が数人。

「分隊長の話に食い気味!?」
「付いていける人間がいるだなんて・・・!てか誰!?」
「見たことない顔だな。」
「おい、モブリット聞いてこい。」
「何故!」
「そりゃ副長として。」
「任せましたよ副長!」
「副長ってのは頼りになるな!」
「巻き込まれたくないだけでしょアンタら!」

はやく行け!というジェスチャーに、第四分隊副長モブリットは溜息を吐きながらハンジの元へ近づく。

「あの、分隊長、その方は・・・?」

か細いモブリットの声かけにナナシが気づき、同時に他の兵士も後ろでこちらを伺っていることに気づいた。

「ハンジ、後ろ。」
「ん?あー、ちょっと話しすぎてたみたいだね。紹介しよう。先日のトロスト区奪還作戦において討伐補佐の成果を出し調査兵団及び第四分隊に所属となったナナシ だ。異例の訓練兵を経由せずの入団になるから、サポートをよろしくたのむよ!」

頭を掻きながらナナシの紹介を終えるハンジ。対して目の前の面々の表情は驚きに目を見開いている。

「え!第四分隊にですか!?」
「ああ。ナナシ。手前から第四分隊のモブリット、副長だよ。後ろにいるのが二ファ、ケイジにアーベルだ。」
「・・・私もさっき配属を知った身よ。よろしく。」

どうやら彼らには配属の話が行き届いてなかったようで、さっそく不安を抱えながら挨拶をする。

「じゃ、さっきの続きだけど、これが今回捕獲した巨人のソニーとビーンだ!巨人との交流目的として私が名付けた!」

先ほどから視界に入ってはいたが巨人との交流、意思疎通を図っているとは。
4m級を「ソニー」座った状態で、足と腕が杭で地面に刺され、首を太いワイヤーで固定されている。
7m級を「ビーン」うつぶせの状態で、頭部以外を杭で地面に刺され、同じく首を固定されていた。

「さっき話した過去5回の実験の反復を行ったんだ。続いて日光の遮断と痛覚の確認をしたところで、今は次の実験に移る準備をしているとろなんだ。はやく君にもソニーとビーンの頑張ってる姿を見せたいよ!」
そこでモブリットが呆れたように話に割って入る。
「あの、分隊長、打合せの時間過ぎてる気が・・・」
「おっと!そうだったそうだった。今年は何人調査兵団へ入ってくれるのか、楽しみだね〜。あ、実験の結果は研究室に資料があるから、モブリットに案内してもらうといい。じゃ、私はめんどくさい打ち合わせに向かうとするよ!」

じゃーねー!と元気に手を振りながら去っていくハンジ。

「ハァ、ごめんね。分隊長は嵐みたいな人なんだ。改めて、俺はモブリット。これから皆研究室に用があるし、早速案内するよ。」

と言って、モブリットと一同は研究室へ向かうことになり、道中で自己紹介が始まった。

「初めまして!さっきハンジ分隊長に紹介預かったニファです!ナナシちゃんてよんでもいいかな?」
「俺がアーベルだ。この班はある意味大変だが、よろしくな。」
「ケイジだ。分かんねぇことがあったら、こっちのモブリットに全部聞いたら教えてくれるぜ。」
「わかったわ。まだ訓練を初めて4日だし、モブリットに全て聞くことにする。」
「えっ、全部は勘弁してほしいなぁ・・・」

ニファは同年代の同性が同じ班になることが嬉しいのか、とてもにこにこしており、他愛のない話をしながら歩いているとすぐに目的地についた。
一緒に歩く男性陣は、それはそれは癒されただろう。

「これが今回の研究資料をまとめ・・・てる途中の資料だよ。今までのものは、ちょっと今度探しておく・・・・・・」

室内はあちこちに本や紙が散らかっていて全く整理整頓されていなかった。かくいうナナシも整理整頓が出来るほうでは無いため、過去の資料については頷いた。

「ま、過去のはおいおい見させてもらうわ。それよりも重大なことが判明したの。」
「どうしたのナナシちゃん?」





「文字、読めない。」


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