嫌わないで。




私はきっともう二度と戦えないだろうと、その時に確信していた。もう二度と誰かの冷たくなった身体を見ることはできないだろうと。
もし、もしも、またそんなことがあったら、私はきっともう二度と立つことすらできなくなってしまうだろうと。だから、そんなことがないように、逃げて、逃げて。
たとえ自分の存在意義を失ったとしても、私は、自らの足で立てなくなってしまう事を恐れて、逃げた。


さっきから横にいる後輩がちくちくちくちくと痛いほど視線をぶつけてくる。私はそれに気づかないふりをしながらただ前を見て座っていた。

任務帰りの車。部下に車を運転してもらいながら怪我をしていたフランと、免許を持たない私は後部座席に座っていた。

「いやー、今日は簡単な任務なはずだったのに戦わない先輩のせいで怪我したし先輩は泣き出すし散々でしたねー」

「…」

返す言葉もない。私は結局何もできなかった。ただ戦うフランを震える手を握りしめて影から見ていることしかできなかった。

「痛い?」

「このくらいなんともないですー。でも、あんなことで取り乱していたら暗殺部隊やってられないですよー」

「ごめんなさい。」

後輩に任務の事で諭されるなど、あってはいけないことなのに。動揺しては行けないと頭ではわかっていたはずなのに、足が竦んで、手が震えて、私は何もする事が出来なかっただけではなく、迷惑までかけてしまった。謝っても謝り足りないくらいの罪を犯した。暗殺部隊の幹部失格だ。

こわい。という感情が駆け巡る。私は、ザンザスに嫌われてしまったらもう、生きていけないのだと、比喩ではなく本当に思っていた。


 





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