夢の中と現実世界。
ここでの居場所までなくなってしまったら私には何が残るのだろう?
何もない、私自身には何の価値もないのだ。もし、ここでの私を否定されてしまったのならば、私は消えてなくなるしかないのだ。
「オカアサン、」
小さな女の子が必死にオカアサンのあとを追いかける。
オカアサンという生き物は、彼女にとってはよくわからない、魔物みたいな生き物で、何をするにしてもその魔物の顔色をいつも伺っていた。
もし、彼女の思い通りの行動ができなければ、そう思うとそれだけで足が竦んだ。
「一色さん、…一色さん!」
ふっと目を開けるとそこには綺麗なエメラルドグリーンがあった。
「…ん…、どうして、」
「大丈夫ですかー?一色さん」
覚醒していない頭では、色くらいしか判別ができなくて、目の前に居るのが誰だかわからなかった。
「……り…」
「り?」
それでも漸く目が覚めてくると、そこに居るのがフランだと認知した。
「ごめん、フラン…寝てた」
「まだ目的地は先ですけどー。随分魘されてたので起こしましたー。大丈夫ですかー?とりあえずお水でも飲んでくださーい」
フランに水を手渡され、それを一気に喉に流し込んだ。今日はフランの運転ではなく部下の運転なので、私とフランは並んで後部座席に座っていた。
「なーんかやな夢みてたんかな。あんまり覚えてないんだけど。汗が凄い。」
「しっかりしてくださいよー。今からミーたちは10名足らずで、場合によってはアジトひとつ壊滅させるんですよー。」
小さな小さなファミリー。そのボスと話し合いをして、交渉決裂だったらそのファミリーを壊滅させろ。それがスクアーロに言われた任務だった。
私は交渉係り。フランは壊滅係り。
フランがどのくらいできるのかはわからないけど、私が戦うことはまずないだろう。そもそも匣もなにも持ってきていないのだから、戦えない。戦う気など毛頭ない。
夢でも悪夢で、今からもまた悪夢を見ることになりそうで、
あぁ、今日はなんて嫌な日なのだろう。と心の底でスクアーロを恨んだ。