不思議な人。
目を瞑っても、瞼の裏に鮮明に残っているあの景色。私はきっと、その景色を忘れられることはないんだろうと思う。忘れたくても忘れられない、あの景色。
すっかり私をザンザスと同じ空気を持つと認識したのか、フランが私に軽口を叩くことはなくなった。それはそれでいいのだが、少しさみしい、だなんて。
「今日のオフはフランだけなんだね。みんな任務か。ちょっとさみしいな。フランは今日は何かする予定あるの?」
遅い朝食をフランと取りながら今日の予定をきいた。間延びした声で、今日の予定が何もないことを告げたフランをにやりと笑って見た。
「買い物付き合ってよ」
フランが運転する車の助手席で外の景色を見ながら懐かしい景色だなぁと感動した。
「一色さんって免許持ってないんですー?」
「うん。ちょっと前までは学生だったし、まぁみんな私が1番年下だから甘やかしてくれてて。送り迎えとか、してくれてたから必要ないかなぁって。」
「ほほー。ゆとりですねー。」
ある程度叩いていい軽口と、私が怒る生意気な台詞の区別がついたのか、最近は少しだけ仲がいい。年が近いという理由もあるが。
「フランも免許持ってなさそうだけどね」
「そうですかねー?」
車は持っている方が便利だと、冷めた口調で熱弁するフランをみておかしく思う。
買い物を終えた私たちは荷物を車に乗せ席に座った。いつもの儀式をしに、フランに海へ向かうようにと頼んだ。
海へつくとフランを車の中へ置いてけぼりにしたまま、何時ものように真水を流し込んだ。車の中から不思議そうにこちらをみていたフランと目があって、少し微笑んで手を振ると、フランもひらひらと振り返した。
「いつもしてるんですかー?」
あんなこと、とフランは少し、面倒臭そうにそういった。空になった空き瓶を片手に握ったまま、その言葉に返事をせずにいた。
「寝てるんですか?」
目をつむったまま、やはり返事をせずにいると、フランは私が寝てるという結論に行き着いたようで、ひとつだけため息をつき、
「よくわかんない人だなー。」
それだけを呟き、それ以降はこちらを見ることも、何かを話すこともなかった。
私は、ビンを握る力を、少しだけ強めた。