05妖精

シャワーを浴び終えるとヴォルデモートは部屋を出て行った。

緊張が解けてほっとするが、あるものがわたしを襲う。

暇だ。

ベッドにごろごろしたり、窓の外を眺めたり、残りのパンを細かくちぎってみたり。

その……情事以外のことはやらされないんだな、このしもべ。

「ん」

パンを口に含んで顔を上げてみたら、目に入るもの。
そうだ。謎の本棚があったんだ。これは良い暇つぶしになる。

本棚には古びた本がたくさん並んでいた。
さすがに文字まで読める様にはなってないだろう、と試しに1冊引き抜きパラパラとめくると。

「よ、読める」

本の内容がスラスラと判読できた。
魔法すごい。

どうやら教科書や専門書がしまわれているらしい。
魔法、呪文、薬、飛行術、生物……魔法使いが学ぶであろうことが載っている。

……すっごく面白い!

適当に何冊か抜き取って机に広げる。

すると、本ではなくノートのような1冊が目に入った。

監督日誌
Tom Marvolo Riddle

パラパラとめくってみると、中から写真がハラリ。
魔法使いであろう若者たちが何人か写っている。
驚いたことに、まるで映像かのように動いている。面白い。

中心にいる人物が賞をとった記念写真のようだ。
この人がトムかな?
かなりのハンサムだ。

中は几帳面に寮生活や監督生の仕事がまとめられている。

自分の知らないところで魔法使いも学校に通ったり人間関係を育んだりしているのかと思うと、不思議な気持ちになった。

ふと、カチャリと音がする。
ヴォルデモートかと思い、振り返ると。

「ひっっ!!!」

妖怪が立っていた。

ギョロリとした目玉に垂れ下がる尖った耳、子供くらいの背。
薄汚れた布を体に纏っている。

なんだこいつは。

恐怖で咄嗟に机の後ろへ距離をとる。

「アラ。驚かせてしまいましたねそうですよねー。ワタクシ、屋敷しもべ妖精のハンスと申します! アナタのお世話係に任命されました!」

そんなわたしにはお構いなしに机の後ろに回り込んで手を差し伸べてくる。

よ、妖精?!
このヴィジュアルでそう表現するのかとツッコミたい。

でもお世話係……確かにドアの側に食事やタオルなどが乗ったカートが見える。
敵ではなさそうだ。
差し伸べられた手にそっと自分の手を添えると、ハンスは嬉しそうにぎゅっと握り返してきた。

早速ベッドやら何やらをテキパキと片付け始める。
その様子を見ていると「綺麗な服ですねー。しもべで、マグルなのに」と話しかけられた。

わたしもそう思う。
黒いワンピースの裾をつまむ。

そしてやっぱり、マグルは好かれてないんだな。

少しへこんだ顔をしてしまったんだろう。
ハンスはしまったという顔をして、首と手をぶんぶんと振って否定し始めた。

「イヤッ! ワタクシめは決してマグルを差別しているわけではないのです! ただ、マグルに興味があるのです! マグルは魔法が使えない分、素晴らしい科学力でなんちゃらかんちゃらどーたらこーたら」

さっきからずーっと1人で喋ってる。
相当お話し好きなようだ。

面白くてクスッと笑うと、ハンスは嬉しそうに微笑んだ。

「アナタにお食事をお持ちしましたよ! あのお方の為に精をつけて頂かないと」
「わ、ありがとうございます」

そういえばここに来てパンと水以外何も口にしてないから、腹ペコだ。

食事がちゃんとしていて美味しかったこともあり、お喋りで素直そうなハンスにわたしは心を許してしまい、少しずつ会話を始めた。

ついつい質問を投げかける。
そして色んなことがわかった。

このお屋敷はヴォルデモートのものではなく、最初に黒いワンピースを持ってきてくれた金髪の人、ルシウスのものらしい。
どうやらハンスに衣服を託せないので、あの日は主人自ら持ってきてくれたとか。

この部屋はその人がヴォルデモートに用意した部屋の1つ。
しもべに与える部屋にしては待遇がいいと思った。

あと、魔法使いみんながマグルを嫌ってるわけではないということを熱弁してくれた。
なんとマグルで魔法の能力に目覚めるものもいるらしく、魔法界で活躍しているらしい。

わたしも魔法できるようになりたいなぁ……!

相当わくわくしたところで、本題に入る。
1番聞きたかった、あの人のこと。

しかし。
「ヴォルデモート様は、」と口にした瞬間、ハンスはヒッ!と肩を跳ね、怯えた様子になった。

「あのお方の名を口にするのですね」
「え、だめなの?」
「魔法界では”名前を呼んではいけないあの人”と呼ばれています」

そうなの?
名前呼んでも怒られなかったけど……。

ちょうど仕事も終わったのか、「今度お話ししましょう……失礼します」と言葉を添えて、ハンスはそそくさと出て行ってしまった。

結局ヴォルデモートのことは聞けずじまい。

悶々としながら、スープの最後の一口を啜った。

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