24夕餉*
部屋に戻ると夕食の準備が整っていた。
ヴォルデモートは入口から見て奥に、わたしは手前に――グラスやフォークなどが並べられている席に着くと、目の前に料理が現れる。
「わぁあ」
当然だが、今までの料理と全く違った。
前菜に春野菜のテリーヌ、ジャガイモのポタージュにメインはローストビーフ。どれもこれもオシャレにソースがかかっている。2人の間に焼き立てのパンが入ったバケットとオリーブオイルが置かれ、香ばしい匂いに食欲がそそられた。
「お前とは食事を共にしたことがなかったな」
「あ……そうでしたね」
「ワインは飲めるか?」
笑顔で何度も頷く。
ヴォルデモートと初めての食事、しかもお酒なんて久しぶりだ。
みるみるうちに細長いグラスへ赤ワインが注がれていく。適量で充たされると、ヴォルデモートがこちらへグラスを寄せたので、そっと自分のグラスを重ね、乾杯を交わした。
「美味しい……!」
ワインは甘めでとても飲みやすく、ブドウの香りが駆け抜ける。若干の炭酸が舌を擽り、爽やかでもあった。
ついついもう一口、とゴクゴク喉を通してしまう。それだけで半分以下に減ってしまったワインは、なんと自動的に適量まで充たされていった。
気分が良くなったわたしは料理に手を出していく。
「ん〜〜!」
どれもこれも美味しくて、ほっぺたが落ちそうだ。
「随分と美味そうに食べるものだな」
「だって、とっても美味しいです」
すごい、これを作ってるのもハンスだろうか。それとも他に妖精が居るんだろうか。
妖精たちはどこでこんな技術を身に着けるやら……本場で修行とかするのかな。
そこまで考えて、ふと浮かんだ疑問が口をつく。
「そういえば、ここってどこの国なんですか?」
「イギリスだ」
「えっ……」
わたし、そんなに遠い国にいたんだ。
「今更だな。今まで何処にいるか気にならなかったのか?」
「気になってはいました……」
けど、どうして聞かなかったんだろう?
今まで、よく話していたハンスに質問したこととといったら。
ここでの生活のことや、魔法のこと、魔法界のこと。
「あ、」
そうだ。
あとは、ヴォルデモート様のことばかり……。
普通はここが何処なのか、どうやったら日本に帰れるのかを考えるだろうに。
ヴォルデモート様がどんな人なのかとか、どんなことをしてるのかとか、何処に出掛けているのかとか。そんなことばかり、聞いていた。
「どうした?」
「い、いえ、何でもないです」
随分早い段階で彼に興味を持っていたことを思い出し、顔が赤くなるのを誤魔化すようにワインを飲む。またもグラスの半分以下になったワインは適量に充たされた。
それからは庭で見たものや昨晩訪れたホグワーツの感想など、他愛もない話をぽつりぽつり。
会話が多いわけではないが、自分でもヴォルデモートに対していつもより饒舌であるとは感じた。
少し酔っているのかもしれない。でもまだ大丈夫だろうと自分に甘い判断をする。
が、メインを食べ終えそうなところで指摘されてしまった。
「ナナシ。酔っているだろう?」
そう言われて、右手に持ったグラスを見下ろす。ワインは充たされている。
「いえ……まだ、そんなに飲んでませんよ」
「そのグラスは量が減ると充たされるようになっている」
「え、あれ、そっか……」
どれくらい飲んだんだろう?
おや……ちょっと頭の回転が鈍いかもしれない。
「……。立ってみろ」
従おうとすると、いきなり体勢を変えようとしたことに体が対応できなかったのか、なんと椅子に尻餅をついてしまった。
今度はテーブルに手をついて体を支えながら立ち上がる。
しかし足元が覚束ない。視界もやんわりと歪んでいる。
あ、これ……酔ってるかも。
ヴォルデモートは「やはりな」と呆れたように呟くと、杖を振ってわたしをソファに座らせた。
どうやら久しぶりのお酒で飲み方を忘れてしまったらしい。ふわりと水の入ったグラスが手に飛んできて情けなくなる。そういえば昨日もお風呂でのぼせたところをこんな風に介抱してもらったような。
「ありがとうございます……」
「世話のかかる奴め」
そう呟いて、ヴォルデモートは食事の続きを始めた。その間、大人しく水を飲んで休んでいると尿意に襲われ、2回程トイレに行く。
しかし何度も歩いたことが災いだった。アルコールが更に回ってしまったのだ。
気持ち悪いとまではいかないが体は熱くて頭がぐわんぐわんと回り、肌はうっすらと汗ばみ、足元はふらふらする。
そして、気持ちをコントロールできない。
部屋に戻って、食事を終えていたヴォルデモートがソファで寛いでいるのを見つけて。
わたしはついつい彼をじっとりと見つめてしまった。
「物欲しそうな目をしているな、ナナシ」
「……っ」
揶揄うような台詞に目を逸らしながらも、高揚した気持ちを抑えられなかった。
彼の傍に行きたい。触れたい。触れてほしい。
お酒は隠しておいたものを曝け出す。
「あの、お隣にいっても、いいですか……?」
わたしの言葉に、ヴォルデモートは少し固まった。
しかしくつくつと笑い出すと、こちらに向かって軽く片腕を広げる。
その瞬間ぱあっと嬉しさが体を駆け抜けて。
おずおずと近寄り、手の届くような距離にまで辿り着く。そして思い切って、彼が広げた腕の中へ寄り添うように滑り込んだ。
自然と頬が綻んでしまう。
ヴォルデモートの香りが強まって、更に酔ってしまいそうだ。
彼の胸元辺りに頬擦りするように距離を寄せると、優しい手つきで後ろ髪を梳かれる。
どきどきする。
でも心地良くて堪らなかった。
目を瞑って、このひとときをじっくりと味わう。
「ナナシ」
大好きな声で名前を囁かれて、更なる幸福感に包まれていく。
なんて甘い時間なんだろう。
このまま――ずっとこのまま、隣に居たい――。
「おい……何を寝ている」
しかし願いは虚しく。
ぺちぺちと頬を叩かれ、夢見心地から引き戻されてしまった。
「へ、あ、すみません……」
「お前はどれだけ眠れば気が済むのだ。まさか生殺しにする気ではないだろうな」
「え、」
するすると背中のファスナーが降ろされていくのを感じ、肌に外気が触れる感覚に目を覚まされる。
酔った体は力が入らずされるがままで。だらしなくなったワンピースをヴォルデモートに軽く剥がされ始めた。
「や……わたし、汗が……」
「誘惑した癖に拒否するのか……? 酷い女だ」
「んぅ、」
唇を塞がれ脳内がとろけ出す。
深まる口付けに翻弄されて、もう何も考えられない。何度も重ねられる口付けの最中、ソファの上に押し倒されていく。ワンピースは下に引っ張られ、簡単に取り払われてしまった。
アルコールのせいだろうか。
とても熱い。ヴォルデモートに触れられているところが、全部。
やっと唇が離れたので、見上げると。彼はすっかり下着姿を晒しているわたしの体を物珍しそうに見つめていた。
「そうか。衣服を与えたのだったな」
下着の上から胸を包まれ、そのもどかしさに息が詰まる。
そのまま手は下に滑っていき、下着1枚を隔てて秘部に触れられた。割れ目に沿って何度も行き来するようになぞられ、そこは熱を帯びていく。
眠気が覚め、すっかりと雰囲気に酔ったわたしを見て、ヴォルデモートは笑みを深めた。
「外す手間は煩わしいが……お前の恥部がここに秘されているのかと思うと、そそるものだ」
「……っ」
厭らしい台詞にゾクゾクと体の芯が疼いてしまう。
秘部をなぞる手は止めないまま、ヴォルデモートはもう片方の手でブラジャーの肩紐を下げると、鎖骨の辺りに舌を這わす。そのまま降下する甘い刺激が胸に到達すると、彼は胸を覆う布をずらし突起を甘噛みした。
「っあ、んぅ」
ちらちらと動く舌と適度な痛みを与える歯に翻弄されてしまう。視界にわたしを愛撫する彼が見えて、恥ずかしくなって目を瞑る。
ふと下の手が動きを変えた。脱がせることはせず、布を横にずらしてわたしの秘部を晒したのだ。そのまま指を入れられ、中を掻き回され、呼吸が荒くなる。
「っ……、……〜〜!」
複数本の細長い指に肉壁を嬲られ、なけなしの余裕は消え去った。
わたしの弱いところなんて知り尽くされている。
あっという間にくちゅくちゅと厭らしい水音が耳につき、とろりと液が臀部の方へ垂れそうになっていることに気づいて、顔が熱くなった。
指の動きに絶頂がちらついたところで、引き抜かれ。物足りないというように膣が収縮する。
つい、強請るようにヴォルデモートの服を掴んでしまう。それに反応するように彼は体を起こし、わたしの顔を覗き込んだ。
「どうした?」
恥ずかしくて答えられるわけない。
……わかってるくせに。
彼は焦らして、わたしの赤い顔を楽しんでいる。
「……意地悪しないでください……」
「……」
「っ……」
「ナナシ……まだおねだりが出来ない様だな」
口ごもるわたしを色のある声で嗜めると、彼は硬くなった自身を取り出し、わたしの秘部へとあてがった。
「欲しいか……?」
本当に、意地悪。
赤い瞳に抗えるわけがなかった。
羞恥心を押し殺して、コクリと頷く。
それを見て彼は吐息混じりに笑うと、それ以上焦らすことなくわたしの中へそれを捻じ込んだ。
「! あぁっ」
「はぁ……、締めるな……」
「う、ごめんな、さ、ひゃっ」
「……っ」
わたしがいつもより感じやすいことを悟ったのだろう。ヴォルデモートは一気に昇り詰めることを選んだようだ。
激しい出し入れが始まり、瞬く間にその波に呑み込まれていく。
「あ、っ、ぁあっ、うぁ」
「……っ……ナナシ、」
「……、……!」
全身を揺さぶられるような動き。肌と肌がぶつかる音が部屋に響く。
ヴォルデモートの性器に膣を素早く擦られ、こつこつと子宮口を連続的に突かれ……その強い圧迫感に身を反らす。
頭が真っ白になっていく。
どんどん、追い詰められていく。
「――――!!」
とどめを刺すかのように。
奥に押し当てられたまま上下に腰を振られ、わたしは絶頂を迎えた。
その快楽にぽろりと涙が零れたが、汗と混じって分からなくなってしまっただろう。
「っあ、ヴォルデモートさま……っ」
わたしの収縮に合わせるように出し入れを繰り返した後、ヴォルデモートは中へと欲を吐き出す。
どろりと熱い彼の精液が膣内に絡みつく感覚に1つ身震いしたあと、わたしは彼から手を離し、体の力を抜いた。
繋がったまま、ヴォルデモートはわたしを見下ろす。
「ナナシ……今後、人前で酒を飲むな……」
「っ、すみません。見苦しい、ところを……」
「違う。見せたくないのだ……誰にも……」
「ひゃ、!」
ずるりと突然、密着していた性器を抜かれて思わず嬌声を上げてしまう。そのまま抱き上げられ、彼の腕の中で見つめ合うような体勢になる。
赤らんだ頬を覆うように片手を添えられて、そこだけ熱が増していった。
「俺様以外に、そんな姿を見せるな……」
セックスと甘い囁き。
酔いは回るばかりだった。
「お前の全ては――俺様のものだ」
彼の声が脳に染み込んでいく。
そう……わたしはヴォルデモート様のもの。
――その証も貰っている。
彼が私を失いたくないのも、護るのも……証の力。
わたし自身ではない。
お酒は隠しておいたものを曝け出す。
心の奥底で思っていることを口に出してしまう。
「……指輪を嵌めているから、」
ヴォルデモートの目が僅かに見開かれた。
動揺したみたいに。
「だから……わたしを傍に置いて下さるんですか……?」
快楽で緩んでいた涙腺のせいで、目の前が涙でぼやけていく。耐えられなくなって目を瞑ると、ぽろぽろと零れ落ちた。
もうヴォルデモートがどんな表情をしてるか、分からない。
頬を覆う彼の手の力が抜けていく。
その微かな動きが儚くて。縋りたくなる。
手は顔を這うように移動して、わたしの視界を遮るように両目を隠した。
途端に意識が闇の中へと溶けていく。
ヴォルデモートは、答えをくれなかった。
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