17微笑*
ヴォルデモートの手が、わたしの顔に触れるか触れないかのところを辿った。微かに薬指が頬に触れる。
目を細めて、見定めるように顔に視線を回されて、心音がいつもより早く大きく鳴っていたけど、でも、わたしは真っ直ぐに彼を見つめ返した。
だって、伝えた言葉に嘘偽りは無い。
「ナナシ……」
掠れた声には、いまだ迷いが隠れていた。
どうしてこんなに愛を信じないんだろう。
わたしは彼のことを深く知らない。
自分に向けられる愛を受け容れられないほど、疑う気持ちを覆せないほど、酷い目にあったの。
わたしは頬の横で彷徨っていた彼の手に自分の手を重ね、頬擦りをした。そして、そっと親指にキスをする。
この、白くて細長い指が好き。
この手がどんなにたくさんの命を奪っていたとしても。
そのまま親指がわたしの唇をなぞり、薄く開かせる。
ヴォルデモートの顔が近付いてきて、舌を差し込むようにして深い口付けが始まった。
「んっ……ふ、ぅ……」
舌を絡めたり、内側をなぞったり、歯を擽ったり。お互いを貪るように長く長く唇を縫い合わせる。
時折ヴォルデモートの舌が、頬をはたかれてできた口内の切り傷に触れると、ピリッと痛みが走った。しかしその痛みさえも心地良く感じる。
どちらのものともわからない唾液がだらしなく顎を伝った。やっとの事で少し離れて、ヴォルデモートは伝った唾液を拭うようにわたしの顎を舐め上げる。そのまま輪郭を沿い、耳に到達して。今度は丹念に耳の内側を刺激する。
「っ……、……!」
ゾクゾクと首筋が粟立ち、擽ったさに自然と体が逃げようとするのを、ヴォルデモートはわたしの背中に左手を回し引き寄せた。
右手は彼の膝に乗った太ももに這わされている。スリット入りのワンピースで跨っているので両脚は剥き出しだった。直に触れられて、体が疼き出す。
わたしは今までになく、自らヴォルデモートに触れたいという欲望に満たされていた。
愛撫を受けながらもなんとか手を伸ばして彼の衣服を乱す。日本の着物のような形をしていたので、留め具をほどいてしまえばするりとはだけて彼の肌を露わにした。いまや衣服は肩に掛かっているだけだ。
「困った奴だ……」
耳元で囁かれて、ピクンと反応してしまう。
ヴォルデモートはわたしの両肩に手を当てると、器用にカーディガンごとワンピースの肩紐も降ろした。あっという間に上半身を露わにされ、外気が肌を撫でる感覚に身震いする。
暫くヴォルデモートはわたしの体を見つめ続けた。
彼に付けられた痣、歯型やキスマークで、綺麗とは言えない。しかし彼は静かに「美しい」と呟いた。
ヴォルデモートに姿のことで褒められるのは初めてだったし、ましてや男性に”美しい”という表現を使われること自体も初めてで、何と言っていいか分からなくなり視線を泳がせる。
彼もぶら下がる衣服の袖を脱ぎ払って、上半身を纏うものを無くした。
私たちは1人掛けの小さなソファの上で半裸で見つめ合っている。だんだんと気分が高揚してくる。
「……んっ」
右胸全体が手で包まれ、左胸に舌を這わされ始めた。
たちまちペースはヴォルデモートの物となる。
彼の細長い指が胸を擽るように揉みほぐし、突起をかりかりと弄ぶ。かたや唇に吸われ、歯を軽く立てられ刺激される。
「あっ……、ん、うぅ」
あっという間にわたしは溺れて、縋るように彼の肩を掴んでいた。
もたげ始めた彼のものが太ももに当たり、わたしの子宮がきゅんと反応する。しかし下半身には触れられることなく、胸への愛撫が続けられて。
気持ちが良いが、切ない声が出てしまう。自然と秘部を擦るように腰が動いてしまう。
「ひっ、!」
ふいに胸の突起を強く吸われて、一際高い声が出てしまった。
「そんなに触れてほしいのか?」
ヴォルデモートはやっと胸を解放して、頭を上げる。
腰の動きを指摘するように手が横腹をなぞって下降していき、顔が熱くなった。彼の手は、腰辺りで丸まっていた脱ぎかけのワンピースで止まる。赤い顔で黙るわたしを一瞥してから、彼はワンピースを魔法で消し去ってしまった。驚いてはっと息を呑むも、すっかり真っ裸にされてしまったことで更に恥ずかしさが募る。
しかもわたしは彼の膝に脚を広げて跨っているのだ。すごく厭らしい体勢であることを再認識させられた。
「忠告した筈だ。加減はできないと」
いまだ彼は秘部には触れず、脚の付け根辺りで手を休めている。
「誘ったのは……ナナシ……お前だからな」
そう言われると躊躇ってしまうが、気持ちは決まっていた。
わたしを失いたくないと言葉にされたとき、こんなに嬉しいことってあるんだってくらい、幸せが身体を駆け抜けて。
同時にヴォルデモートへの気持ちが抑えられなくなった。
触れたくてたまらない。
触れてほしくてたまらない。
こくりと頷く。
それを皮切りに、彼の手が蛇のように秘部へと滑り込んだ。
「……、はぁ……」
しかし直ぐには奥へと進まず、入り口のひだを2本の指でくにくにと挟んだり、割れ目に沿ってなぞったり、浅いところを弄って音を立てたり。
加減ができないと言う割には暫く焦らされてしまう。
しかしそのせいで完全に不意を突かれた。
「……っ、あ!!」
なんの脈絡もなく複数本の指が膣内に滑り込んできて、触って欲しかった内部に求めていた刺激を与えられ、嬌声を上げてしまう。
ヴォルデモートの長く骨ばった指はわたしの深いところまで届いて、ピンポイントに弱点を突き、擦り始めた。
「う……ぁあ、……っ」
ぐちゅぐちゅと激しい水音が部屋に響く。
暫く目を瞑って耐えていたのだが、ふと目を開けるとバチンとヴォルデモートと目が合った。どうやらわたしの顔を見て楽しんでいたらしい。その口角は歪んでいた。
「……ナナシ。手が塞がっている。脱がせてはくれないか?」
ヴォルデモートはそう言って、チラ、とわたしの視線を誘うように自分の腰を一瞥した。彼の衣服は腰あたりに留まり、下半身を隠している。既に大きくなった彼のものが主張しているのを見つけて、わたしは何も言えなくなった。
わたしの服は魔法で消したのに……!
「っあ、」
意地悪なお願いに戸惑っていると、急かされるように肉芽を弾かれた。甘い刺激に体が前に傾く。早くしろと言うように、絶え間無く続く下腹部の刺激に耐えながら。おそるおそる彼の衣服を拡げると、彼の性器が姿を現す。
血管が浮き出るほど膨らんだその姿に、ごくりと唾を呑んだ。
「さあ……自分で挿れろ」
「……え?」
「俺様は動けないだろう?」
確かにわたしが上に乗ってるから無理だけど。自分から跨れって、こと?
……それはあまりにも恥ずかしい。
「あ、あのう、移動しませんか……」
ベッドに……という言葉はどんどん小さくなる。ヴォルデモートが無言で不服そうなオーラを出すからだ。極め付けに「誰かのせいで疲れているんだがな」と言われてしまえば、逆らえるわけがない。
渋々ソファの座席に膝を立て、ヴォルデモートの肩を借りて手で体を支える。2人の体の距離が近寄って、熱が篭った。
促されるようにされ少し腰を降ろすと、彼はピタリと入り口に性器をあてがう。これから訪れる快楽を想像しただけで溶けてしまいそうだった。
「……っふ……、」
少しずつ、腰を沈めてヴォルデモートを咥え込む。その質量の大きさに呼吸が荒くなっていく。
彼のものが弱いところに擦れると、耐えられなくなってヴォルデモートにしがみついた。
「うぅ、」
「どうした? まだ腰が浮いているぞ」
「これ以上、は……はぁっ……」
もう少しで奥に到達しそうだ。このまま腰を降ろしきれば、重力によってわたしの奥深くに彼の性器がぶつかるだろう。
今でさえ余裕が無いのに、これ以上となると腰を落とすのが怖かった。
「やっぱり、ベッドに……」
「それは後々のお楽しみだ、ナナシ」
「ひぁん、」
首を甘噛みされ、更にベロリと舐められ、力が抜ける。その拍子に脚の緊張がほどけかけ、更に彼が進んだ。ぐっと奥に当たった。
「ひう、む、り、」
とどめに。ヴォルデモートの手が背中を上から下へ、つうっと撫でる。するっと体の力が抜けて、わたしは完全に彼の上に座り込んだ。
この上ない程、ヴォルデモートがわたしの中に入り込んでいる。
「……! ……あっ……あ、あ、」
子宮に食い込むような状態の持続に、わたしは痙攣するように達してしまった。
「っ……」
わたしの締め付けに彼は眉を顰めて耐える。
そして軽く、その腰を揺らした。
達したばかり、しかもその拍子で奥へ擦り付けられれば、その快感は衝撃的だった。目に涙が滲んだ。
「う、うごいちゃ、だめ」
「ヒトの性だな」
ヴォルデモートの唇が耳を擽る。
「駄目と言われると、したくなる」
止める間も無く。
下から突き上げるように腰を振られ、わたしの頭は真っ白に染め上げられた。
「ひあぁぁあ! ゃ、やめ……っ」
気持ちが良すぎて、涙が流れた。
感覚が快楽に支配されている。少しだけ働いた聴覚が、接合部からの律動的な水音を捉え、その激しさを知ることができた。
ぴったりとくっつくほど抱き締め合って、繋がっている。お互い汗ばんでいるので、肌と肌が吸い付くようだ。ヴォルデモートが動くと触れ合う胸も擦れて、それもまたわたしを煽った。
「あ、あぁ……! ヴォル、ぅ」
「……は、」
「〜〜〜!!」
またも襲いかかってくる絶頂の波にわたしは溺れる。同時に、彼の性器が中で跳ねるのがよくわかった。彼の精液が、まるで直に子宮へ流し込まれているかのように感じた。
脱力して、へたりとヴォルデモートに身を任せ、呼吸を整える。今も尚繋がったままなので、時折びくびくと体が痙攣した。
ヴォルデモートはわたしを抱き締めたまま立ち上がり、運んで。そして赤子を降ろすかのように優しく、ベッドに寝かせた。その拍子に彼のものが抜かれ、どちらのものともわからない液がベッドに染みを作る。
その喪失感はキスによって埋められた。絶頂の余韻も冷めないまま、口内を味わうかのような深いキス……もういっぱいいっぱいだ。
でも加減はできないとの忠告を呑んでしまったし……。
何より、こうしてヴォルデモートと触れ合うのは、幸せだ。
唇が離れ、しかしお互い名残惜しく、顔を近づけたまま見つめ合う。
「ナナシ……」
そんなわけないのに、その声に愛が宿っているような気がして、きうっと胸が切なくなった。
そんな風に優しく呼ばれたら。
「先程のお前の言葉……受け容れよう」
……そんなことを言われたら。
期待してしまう。
愛してくれるんじゃないかって、思ってしまう。
わたしは微笑んだ。
愛を信じてもらえた喜びを噛み締めるように。
愛を求めてしまった傲慢さを隠すように。
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