Questa cattiva notizia te la do a titolo di pura informazione

(参考までに悪いニュースを君に伝えておく)



カクが帰ってきたため、ミリアは慌てて立ち上がるとナミの隣まで駆け寄った。気まずさを感じていたところだったのでタイミングとしてはナイスと言える。なるべくルッチを視界に入れないよう心掛けながら、ウソップの置いていったらしいケースをひとつ手に取った。ナミとルフィもそれぞれひとつずつ目の前に置くと、ルフィがばんばんと叩きいくらでも出せると言った。3億ベリーもあれば元の綺麗な状態に修理することは勿論、新たな機能を付け加えることだって可能だろう。従って、3人は次々と注文を投げつけていく。
暗雲が垂れ込め始めたのはカクの、傷が深い、豪快な旅をしてきたのだろうという言葉からだった。身振り手振りを交えてこれまでの旅を語るルフィは気付いていないようだったが、ミリアはまさかと胸元で手を握り締める。
メリー号は旅を支えてくれて仲間。ちゃんと直してあげたいーーそれは、一味全員の思いだ。だから、

「はっきり言うが、お前達の船は……わしらの腕でも、もう直せん……!」

カクが告げた現実に、3人の時間が止まった。修理しても次の島まで持たない。竜骨、という部分がひどく損傷していたらしい。ミリアは思わず口を覆った。嘘だ、そんなことはないと、カクに詰め寄ってしまいそうだったからだ。ナミの言う通り、今日この日まで普通に航海をしてきたのだから。しかし、彼は紛れもなく本職の人間。ど素人の3人とは訳が違う。そんな彼がそう判断したのだから間違いはないのだろうと、無理矢理に納得しようとしていた。
しかし、当然ルフィは納得がいかない。金ならいくらでもある、必死にそう訴えるルフィに対して、カクはあくまでも淡々と冷静に言葉を返した。
パウリー曰く、船首から船尾までを貫き支える最も重要な木材ーーそれが竜骨。船造りはそれを中心に木材を緻密に組み上げていく。つまり全骨格の土台であり、「船の命」に等しく、そのため挿げ替えることなどできない。だから、メリー号は誰にも直せない。
お前らの船はもう、死を待つだけのただの組み木だーーあんまりな言い種にナミが怒るが、パウリーは事実だと言って取り合わない。じわりとミリアの目に涙が浮かぶ。
ならばと、ルフィはゴーイング・メリー号を造ってくれと要求した。すると次はルッチが、それも無理だと素気なく却下した。世界中に同じ成長をする木はない、だから、たとえ同じ設計図を使ったとしても全く同じ船は作れないのだと言う。造ったとしても、今まで乗って来た自分達こそが最も"違う"と感じてしまうのだ、と。演説するかの如く器用に羽を動かしながらのハットリのーールッチの説明を、3人は黙って聴いていた。
ミリアは完全に彼らの言い分を理解し、納得していた。メリー号はもう、誰にも、たとえ世界屈指の船大工達にも、直すことは出来ないのだ。脳裏に、初めてメリー号を見たときのことが、乗り込んだときのことが、麦わら帽子を被ったドクロマークを掲げたときのことが、過ぎる。とうとう溢れた涙は、頬を伝って地面に落ちた。理解しても、納得しても、悲しみまでもが無くなるわけではない。
黙り込む3人に、アイスバーグがいい機会だから新しい船を買っていけと言う。だが、ルフィは乗り換える気はない、と叫んだ。

「まだまだ修理すれば走れる!!大丈夫だ!!」
「ルフィ……」
「信じられるか!!お前ら、あの船がどんだけ頑丈か知らねえから、」
「ルフィ!!」

今まで黙り込んでいたミリアが、悲痛な声でルフィの名を叫んだ。それをきっかけに沈黙が降りる。数瞬後、ミリアは俯きがちだった顔を上げて、震える唇を開いた。

「もう、やめようよ、ルフィ。そんなこと言ったって、メリーちゃんが直るわけじゃない」
「っ!なんだよミリア!!お前、メリー号の強さ知ってるだろ!?」
「知ってるよ、知ってる、けど……」
「じゃあなんでそんなこと言うんだ!!」

そっと目元を拭うと、息を吸い込みぐっと拳を握り締め、はっきりと言葉を紡いだ。

「今までの航海で、メリーちゃんにどれだけの負担を掛けてきたのかだって、知ってる」

ルフィとナミは息を呑んだ。2人とも、分かっていた。自分達がメリー号に掛けてきた負担は、信頼しているからこそ、大きなものになっていたことを。メリー号なら大丈夫、これくらい乗り越えられる。そんな思いが、全員の胸に存在していた。山を駆け登ったし串刺しになったことも燃えかけたこともある。空を飛んだこともあったが、あの高さからの着水だって負荷は大きかったろう。

「……だけど!!それでも、メリー号ならきっと!!」
「沈むまで乗りゃあ満足か」

しかし、即座に受け入れられるほど大人ではないルフィは、尚も主張を繰り返そうとする。それを止めたのは、傍観していたアイスバーグだった。

「呆れたもんだ……てめェ、それでも一船の船長か」
「……!!」
「そっちのお嬢さんの方がよく分かってる」

冷静な言葉に、今度こそルフィも口を閉じた。船を買う気になったらまた来るよう言うと、アイスバーグはカリファを呼ぶ。ご検討を、その言葉と共に差し出されたカタログを、しかしルフィが俯いたままいつまでも受け取ろうとしないため、ミリアがおずおずと受け取りありがとうございますと頭を下げた。手が震えていることに気が付いたのは、手渡したカリファと、話の間中もずっと見つめていたルッチだけだった。
重苦しい空気が漂うなか、門の方から歩いてきた特徴的な髪型のーーアイスバーグ曰く寝癖らしいーー男性がアイスバーグへと声を掛けた。世界政府の役人が来たようだ。気を利かせたパウリーが、3人に隠れるよう指示する。海賊が役人に見つかるのはまずいのだ。たとえ船大工が海賊に船を提供しようと罪には問われないが、鉢合わせるのはよろしくない。

「ん?」
「あれ?」

不意にルフィとミリアが揃って首を傾げた。そして、ケースが軽いのだと言う。それぞれ1億ベリーの入ったケースが、軽い。嫌な予感がしつつもそんなはずはないと否定するナミだったが、確かめるためにそっと二つのケースを開けた。

「ギャ〜ッ!!」
「いや〜っ!!」
「キャ〜ッ!!」

途端、造船所に3人分の悲鳴が響き渡った。先程隠れていろと言ったばかりだというのに騒ぐ3人を不審に思い何事かと慌ててやって来たパウリーと、遅れてやって来たルッチに、2億ベリーがないと魂の抜けたような真っ白な顔で訴える。前科があるため疑いの目で見られたパウリーは、目を丸くさせながら必死に否定した。
それを他所に、ルルと呼ばれたすごい寝癖の男性はカクに、フランキー一家といなかったかと問うていた。査定に出ていたカクには、当然のことながらなんのことだか覚えがない。しかし、次にルルの口から飛び出した"長い鼻"という単語に、過敏に反応する者達がいた。

「ウソップだっ!!」
「フランキー一家と一緒にいたの!?」
「そんな……!なんで!?」

血相を変えた3人に、ルルは抱えられて連れてかれていたのだと言った。それでは誘拐も同然。ナミは振り向きルフィに探すよう言うが、そのときにはすでに、ルフィはミリアをがしりと掴んで勢いよく走り出していた。

「ちょっと待って!ミリア引っ張ってどこ探す気!?」
「いぃやぁ〜っ!!」

再び、ミリアの悲鳴が響き渡った。