Mi fa un piacere?

(ひとつお願いがあるのですが)



ーーウォーターセブン"造船島"中心街の、とある換金所。
船を出た4人はまず黄金の換金のため、貸しブル屋というこの島での主要な足であるブルを貸してくれる店の店主から貰った地図を頼りにーー途中ブルが近道を使ってくれたーー彼から教わった換金所へと赴いていたのだった。街の活気と水力を利用した技術の高さ、そして何より海賊を伸してしまう船大工の存在に驚嘆し、さらに期待で胸を高鳴らせながら。

「そんなに金くれるのかァ!?」

ウソップの制止の声など届かないルフィは、あまりの金額に建物が揺れるのでは、というほどの叫び声を上げた。その額なんと1億ベリー。それだけあればメリー号を直せると大満足のウソップとルフィに、黄金を調べていた鑑定士は朗らかに笑い換金の用意をしようとする。が、

「ひ!!」

今まで無言でいたナミが、唐突にその長い脚を振り上げ机上へと勢いよく置いた。どうしたのかと問うルフィを無視し、にっこりとした笑みを浮かべて鑑定士に話し掛ける。その姿はまるで魔王のようだったと後にウソップは語る。

「一つ……言い忘れてたけどコイツは1億の賞金首。二つ……今の鑑定に私は納得しない。三つ……もう一度ウソをついたら……」

こつり、と鑑定士の米神に当てられたのは、一見するとただの折り畳み傘。しかし、取っ手部分には拳銃を彷彿とさせる引き金があり、それを押し付けているミリアの指が、掛かっていた。

「あなたの首を貰う!!以上!」

ナミの言葉による脅しとミリアの実力行使も辞さない姿勢についに鑑定士も折れ、黄金は1億ではなくその3倍、3億ベリーに姿を変えた。女はこええな、としみじみ思うウソップもまた、これには喜びを隠せない。

「空島の冒険が遂に実を結んだわ!大金持ちよ私っ!」
「私達、だろ」
「こんな大金久しぶりに見るわ……!」
「見たことはあるのかよ……さすがは箱入り……」

大歓喜の4人は今度こそ造船所へ向かっていく。1億の入ったケースを水路に落としかけたルフィとそれをのほほんと見ていたミリアは、お金から引き離されてしまったが。



造船所の、大きく1と書かれた入口へ戻ってくると、人集りは消え失せ、代わりにトンテンカンという作業音が響いていた。とにかくココロに紹介された"アイスバーグ"という人物を探そうときょろきょろするが、それらしき者は見当たらない。何者なのかも教えられていなかったため、誰に尋ねればいいのかも分からなかった。

「おじゃまします」

話しているうちに、制止の声をかける間もなくルフィが柵を乗り越え敷地内に入ろうとしていた。が、

「おっと待つんじゃ。余所者じゃな?」

指で額を抑えられ、とりあえず外で話そうと追い出された。工場内は関係者以外立ち入り禁止だと話す、帽子を被った鼻の長い好青年。そう、鼻が長い。4人にはあまりにも見覚えがありすぎた。

「ああ、ウソップか」
「おれはここにいるぞ!ルフィ!」
「そうよ。この人四角いわ」
「ナミ、その判別はさすがに失礼じゃ……でも、ウソップ以外で鼻の長い人は初めて見たわ」

4人のコントのような、失礼なやり取りにも不快な顔を一切見せない好青年に、ナミが思い出したようにアイスバーグの名を告げた。そして、ココロに貰った紹介状を手渡すと、好青年は納得したように頷いた。
語尾に"じゃ"が付くことでルフィにおっさんかと尋ねられても、じいさんみたいな話し方だとウソップに失礼なことを言われても、青年は朗らかに笑って肯定を示すだけだった。
彼が言うには、アイスバーグという人物はここウォーターセブンの市長であり、この造船所ガレーラカンパニーの社長、さらには海列車の管理までしており、この島で彼を知らぬ者はいないのだ、と。4人にとって予想以上の大物であり、驚きを隠せない。ミリアの中で、そんな人物に対する紹介状を書けるココロも、酔っ払いではあったがそれなりに凄い人なのでは、という憶測が芽生えた。
停泊場所を聞いた好青年は、何故か準備体操を始めた。そして、ひとっ走り船の具合を見てこよう、と言う。戸惑いながらもヤガラブルを使うのかと尋ねても、それでは待ちくたびれるだろう、10分待っとれと返され、さらに困惑の色を深める。ヤガラブルはもちろん、人間の足でだって10分では往復はおろか船に着くことも不可能だろう。クラウチングスタートの姿勢をとった青年は、再び10分と力強く告げると、勢いよく走り出した。その速さはまさに風の如く。向こう側は絶壁であるにも関わらず、一切の躊躇なく飛び降りてみせた。

「ンマー!心配するな」

焦る4人に新たな声が掛けられる。一体誰かと振り返れば、背後に美女を従え、胸ポケットに入ったネズミらしき動物を撫でる男性が。

「奴は街を自由に走る。人は"山風"と呼ぶ。『ガレーラカンパニー』1番ドック"大工職"職長、"カク"!!」

自慢げに話す男性の正体は分からないものの、余程この造船所を、そしてここで働く職人達のことを誇りに思っているのだろうことが伺えた。

「"麦わらのルフィ"、"海賊狩りのゾロ"、"ニコ・ロビン"。3人の賞金首を有し、総合賞金額2億3千900万ベリー。結成は"東の海"。現在8人組の"麦わらの一味"です」

カリファと呼ばれた眼鏡の美女は男性に促され、つらつらと麦わらの一味の情報を述べてみせた。そのあまりの情報量に青褪めるウソップだったが、他の3人はさして気にした様子もなく、淡々と聞いていた。ミリアは内心、父親のことまではさすがにバレていないようだととても安心していたのだが、表に出すようなことはしない。

「おれはこの都市のボス!!アイスバーグ」

堂々と名乗ったアイスバーグだったが、冷静に告げられた今日の仕事をきっぱりいやだと言い張り、それを受けカリファは全てキャンセルに変更したらしい。綿密なスケジュールさえ全てキャンセルできるほどの権力者だと言うアイスバーグに、4人は呆れたような顔になる。
ルフィやナミがコレだのアレだのと彼を指差し話せば、途端に無礼者!と叫んだカリファの鋭く素早い蹴りが飛んできた。慌てて避ける4人は何事かと彼女に視線を向ける。どうやら、アイスバーグに無礼を働いたと感じたようだ。尊敬の念を抱いているのは充分に伝わったが、しかしその蹴りの大半はアイスバーグに入っており、どうやら彼女は天然でもあるらしいとミリアは苦笑する。先程のやり取りからかなり優秀な秘書なのだろうと思っていたのだが、完璧な人間というのはそういないらしい。
ともかく男性がアイスバーグであると分かりナミが差し出したココロの紹介状は、ココロの付けたキスマークが不快だったとびりびりに破られたのだが、しかしなんとも呆気なく船の修理を請け負ってくれた。
工場の案内を提案した彼の後を追って造船工場に向かおうとする4人。お金の存在を思い出したウソップが振り向くと、おかしな格好の男達がケースを持って行こうとしている所だった。男達の乗ったヤガラブルは、どんどん遠ざかっていく。お金を盗られたと焦る4人。すると、橋の向こう側からなにやら騒がしい集団が。先頭を行くパウリーと呼ばれている男性は橋の上から飛び降りると、なんと袖の中からロープを取り出し器用に男達へ引っ掛け水路に落として、そのままヤガラブルに着地した。全て空中での出来事である。ロープの男性ーーパウリーはどうやらガレーラカンパニーの船大工らしく、4人は胸を撫で下ろした。が、

「いやオイ!戻れ〜っ!!」
「るっ、ルフィ!!」

ケースの中身がお金であると知るや否や、無言で手を振り遠ざかって行こうとしてしまう。今度こそ盗られてしまう、と感じたミリアがルフィの名を呼べば、ルフィも慌てて腕を伸ばそうとした。ルフィの能力は遠くの人間を捕まえるのにもってこいなのだ。
しかし、伸ばされる直前にがしりと掴まれ、振り向けばタンクトップにサスペンダー、黒のシルクハットを被った男性が立っていた。そして、

「おれが行く!」

その男性の肩に止まる、黒のネクタイをした真っ白いハトが、代弁するかの如く、喋った。