なんて素敵な同族嫌悪/弥

寝癖もなし、メイクも完璧、とびきりかわいい服をーーなんて、どの服もとびきりかわいいのだけどーー着て、今朝も月の元へ。今日は午後から撮影があるから、午前中は時間が許す限り月といたいなあ。
いつも月と竜崎さんは早起きで、ミサが行く頃には作業を始めている。きっと誰よりも早い。竜崎さんに至っては寝てないんじゃないかとさえ思う。あ、でも、月に引き摺られてとりあえずベッドには入ってるのかも。
そんなことを考えながら扉を開けると、ごつんっ!という痛々しい音がした。驚いて一旦閉めたあとゆっくり開いてみれば、額辺りを擦るスーツ姿の女性が。ちょうど目の前を通り掛かったらしいなまえさんに、タイミング悪くぶつかってしまったみたいだった。

「だ、大丈夫……ですか?」
「あ、うん、大丈夫」

とても大丈夫そうには見えないけれど、本人は大丈夫大丈夫と言いながらひらひらと手を振った。
ミサは正式なメンバーじゃないから、なまえさんは言わばキラ捜査本部の紅一点。ぴしっと決められたスーツは正に大人の女性然としていてかっこよく、けれどどこか抜けているところがかわいらしくもある。世の人々が思い描く理想の女性像にぴったりなんじゃないだろうか。ミサとはタイプが全然違うし、目標にしようなんて思わないけど、ちょっと羨ましく思う。どう頑張ったってミサにはなれやしないから。

「おはようミサちゃん、これから月くんのところに?」
「あっうん、おはようございます!そうなの!」

考え事をしていたせいで反応が遅れちゃったことは気にせず、月くんは幸せ者ね、こんなかわいい彼女がいて、なんて呟くなまえさんに、ぽっと頬が熱くなる。自分のかわいさは自覚していても、誰かに言われるのはやっぱり嬉しい。

「私もミサちゃんみたいにかわいかったらなあ……」

ぽつりと遠くを見つめて呟くなまえさんの表情は恋する乙女そのもので、相手が誰なのかなんて簡単に分かってしまう。ミサには何を考えているのかなんて全然分からない彼は、一体どう思っているんだろう。なまえさんには、幸せになってほしいな。

「大丈夫!なまえさんは充分魅力的だよ!」

自信持って!ぎゅっと手を握ってそう言えば、なまえさんは驚いたように目を大きく見開いた後、柔らかく微笑んだ。そのときの彼女の、ありがとう、という囁きが、何故か今でも忘れられない。



「Lは死んだわ」

お誘いのメールをもらって、ミサは今、なまえさんと向かい合ってパフェを食べている。なまえさんはコーヒーを一口飲むと、ゆっくりソーサーに戻しながら、感情を感じさせない声音でそう言った。けれど、瞳は隠しようもないほど悲しみに揺れていて、ああ、やっぱりなまえさんは竜崎の、Lのことが好きだったんだなあと思う。ミサは月のためならLなんて殺せるけど、死んで良かったと思うけど、なまえさんの姿を見ていたら、なんで死んじゃったんだろうと思ってしまう。酷い矛盾。
何を言えばいいのかわからなくて黙ったままでいたら、なまえさんもそれきり口を開くことはなくて、どんどん空気が重たくなっていく。パフェもなんだか味がしない。
そのうち、ぽとん、と何かが水面に落とされる音がして前を向けば、なまえさんが角砂糖をコーヒーに投入しているところだった。あれ、さっきはブラックのまま飲んでいたのに、苦かったのかな。呑気に思っていたら、彼女はどんどんと角砂糖を入れていく。目を丸くするミサなんてお構いなしに、それこそ生前の竜崎を彷彿とさせるような、角砂糖タワーを作り上げていく。

「なまえ、さん……?」

ころん、と乗り切らなかった角砂糖が転げ落ちる。机にぶつかって、ほんの少し角を欠けさせた。

「Lは、死んだのよ」

それは、まるで自分に言い聞かせているみたいだった。ぽろぽろと頬を涙が伝って、何度も何度も、Lは死んだの、とうわ言のように繰り返す姿は痛々しくて、胸が苦しくなった。
暫くして取り出した真っ白なハンカチで目元を押さえると、なまえさんはタワーの天辺のひとつを手に取り、口にした。止める間なんてなかった。

「あまい、なあ……あますぎるわ……」

そのまま目を閉じて、今きっと彼女の瞼の裏には竜崎の姿がある、そう思ったらパフェなんてもう喉を通らなくなってしまった。
ミサ、ミサね。本当は、本当に……なまえさんには幸せになってほしかったんだ。

「ごめんねミサちゃん、こんなことに付き合わせちゃって」
「ううん、大丈夫」

結局パフェは残しちゃって、コーヒーカップに積み上げられた角砂糖もそのままで、カフェを後にした。公園のベンチに腰掛けたなまえさんが、ちょっとだけ恥ずかしそうに笑う。無理してるんだなあってことは一目瞭然で、分かっているのに何も言えなかった。きっとミサには、何も言う資格なんてない。

「ミサちゃんなら、」
「?」
「ミサちゃんなら、分かってくれるんじゃないかなって、思って。私のLに対する想いと、ミサちゃんの月くんに対する……キラに対する想いは、たぶん同じだから」
「え……?」
「月くんがキラ、なんでしょう」

そこに疑いなんてなかった。確信を持っている。当然ミサはすぐさま否定にかかった。けれど……なまえさんは緩く首を振った。全てを諦めたかのように、力なく。

「いいのよミサちゃん。誰にも言わないから。……もう、誰にも会うつもりなんて、ないから」

たださいごに答えが知りたかっただけ。Lの考えが正しかったのか。
立ち上がり背を向けて、さようならと手を振るなまえさんを、咄嗟に呼び止めた。この人は今から死にに行くんだ。竜崎に会いに行くんだ。会えるかどうかもわからないのに、それでも。何故かそう思った。

「なまえさん、キラは……キラは、夜神月。第二のキラは、ミサ、だよ」

言ってしまった。どうしよう月に怒られる、嫌われちゃったらどうしよう。月のことで頭が埋め尽くされ始めたミサの方に、なまえさんはゆっくり向き直って。そうして、柔らかく微笑んだ。はっと目を見開く、息を呑む。あのときと、重なる、

「ありがとう」


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