短編 | ナノ
にっこり笑う岡本に、危うく箸を落としかけた。不意打ちの笑顔ほど強敵なものはない…特に、岡本のは。
「…俺が気に入らんかっただけや。篠山とか言うバカのせいで、お前が辞めんといけんとか、アホ過ぎて見てられんし」
「光武ってアレよな、ツンデレ」
「…」
不審な目で岡本を見れば、岡本は最強過ぎる笑顔を浮かべたままだった。普段笑顔が少ないヤツの笑顔ほど、可愛いと思えるものはない…って、何考えてんだ俺。
「俺、光武ってクールなんやと思っとったけど、違うよな、ツンデレさんよな」
「一回沈めようか岡本」
「恥ずかしいなら恥ずかしいって言ってよ光武」
「思っとらんし本気で沈めてぇわ」
岡本は笑った。最近よく思う。岡本は、よく笑う。今まで俺は、クラスで岡本が笑っている姿をあまり見かけなかった。…どれが本当の岡本なのかは分からないが、クラスでの岡本と今の岡本とのギャップが激しくて、俺は困惑した。
「光武」
「何」
「メシ、明日から一緒に食お」
「…」
「沈黙は肯定。決定」
岡本は楽しげに言うと、屋上から去って行った。返事をしなかったのは、嫌だったからでも、ツンデレ効果だったわけでもない。岡本には岡本のグループがあって、岡本は毎日そのグループと食べていた。なのに、俺と食べるだなんて。
「…変な、期待とか…しとらんし」
岡本との距離は、あの日を境に縮まっていた。
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