短編 | ナノ

Spring(光武の場合)



 岡本と言えば、明るいというわけでもないがクラスの中心グループの一員で、垢抜けている部類に入ると思う。
 そんな岡本が俺のバイト先に入ったのは、3ヶ月前のことだった。例の気だるそうな態度で先生に叱られる岡本だったからか心配だったが、岡本は意外にも真面目にキリキリと働き、必要以上のことは決してしなかった。学校ではかなり気だるそうな雰囲気の岡本だが、普段はこんなに真面目なんだ、と新しい一面を見れて、嬉しいのかよく分からない感情に押されたのは、ちょっとした認めたくはない事実だった。

 俺は言ってしまえば度を超えた人見知りだった。目つきが悪いせいで勘違いをさせてしまったことももろもろ、奥手なせいで不遜な態度を思わせてしまったこともあった。別に岡本とそこまで親密になる必要はないと思っても、バイト先が同じという以上、ある程度仲良くなる必要がある。でも俺は出来なかった。案の定、岡本も俺には話しかけられないらしく、気まずい空気がバイト先では流れていた。


 そんなときだった。岡本の中学の友達が、岡本の紹介でバイトに入ったにも関わらず、1日足らずで辞めてしまったのは。
 岡本は責められて、辞めると言い始めて。まともに喋ったこともないのに(しかも長い初会話は俺が一方的に岡本を責めるという失態)、岡本が辞めるだなんて。なんとなく悔しくて、でもそれが何を意味するのかも分からないまま、俺は岡本を引き留めていた。

 今思うと、俺何やってんだ。






「あれ、光武ってこんなところでメシ食っとんの?」

 屋上に現れた気だるそうな男子。言わずもがな、岡本だ。篠山の件以来、会話が増えた俺たちは、ごく自然な関係になっていた。

「しかもひとり? 寂しくね?」

「うるさい黙れ」

「またそんなこと言って…」

 岡本は座る俺に近付くと、隣りに腰掛けた。日を浴びて茶色に煌めく優しい髪が、ぴょこぴょこと風に揺れた。

「俺さあ、店長から嫌み言われんくなった。もしかして、光武が何か言ってくれたん?」

「……」

 先日のことを思い出して、口を噤んだ。ああ、俺も店長に嫌われたかもしれない。

「ありがとう、光武。やっぱ光武っていいヤツやな」




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