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里から出発して3日。
優は故郷への道のりを駆けていた。
「……………。」
『…ゆう、少し休んだらどうだ。』
いつもより落ち着かない様子の優に見兼ねて声をかける。
里から出てからずっとこの調子なのだ。
「………いい、疲れてないし。」
素っ気ない答え。
それに少し苛つきながらも堪え、なるべく落ち着いて説得する。
『そうは言っても里から出てからお前、変だぞ。ロクに睡眠もとらず、食いもんは兵糧丸…それじゃあ故郷に着く前に体を壊す。』
「大丈夫だよ、私はそんなに柔じゃない。」
『お前が大丈夫だと思っていても、体は無意識に悲鳴をあげてるんだ。いいから少しは休めガキ。』
「…うるっさいな。」
ピリッとした空気が烈火の神経を刺激した。
『なんだ、口答えする気か?くそガキ。』
「うるさいんだよ、私がいないとなにも出来ない能無しのくせに。」
『ふん、自惚れるのも大概にしろ弱虫。』
「…っ、なんだと!」
優の中の負の感情が強くなる。
烈火は眉間に皺を寄せた。
「お前に、お前になにが分かるんだ…!」
『……………。』
「さっきっから好き勝手言ってさァ…何様のつもりなんだよ!」
烈火は静かに聞いていた。
「お前のせいだろ!?私がこんな人生を歩む羽目になったのは!!」
『……………。』
「いっつもいっつも暗くて狭くて…あんな汚い祠に1人ぼっちにされて…」
『……………。』
「子供どころか人間としても扱ってくれなくて、友達も、話す相手すらできなかった…!」
『……………。』
「いつだって…私の居場所は……!!」
人殺しの場である戦場だけだった。
最後のそれはとても小さな声だった。
かなり感情的になっていたのか息がほんの僅かだが乱れていた。
「……………。」
『……………そうだな、全て俺のせいだ。』
「…!!」
『だいぶ気分は晴れたか?疲れてないならこのまま行くぞ。』
「…ん。」
優は止めていた足を再び動かす。
余りにも自分が子供過ぎて笑える…八つ当たりもいいとこだ。烈火だってこんな理不尽に、内心ブチ切れる寸前だろう。
申し訳なくて唇をきゅ、と噛み締めた。
『そんなこともある、いちいち気にするな。』
「!!」
『寧ろそうやって八つ当たりでもなんでもいいからお前は喋ってろ。大人しいと俺が調子狂うんだ。』
いつもと変わらぬ様子に優はひっそりと感謝した。
「そんな優しいとこが私は好きだよ。」
『気色悪いこと言ってんな。馬鹿馬鹿しい。』
「はは…………烈火、ごめん。」
『気にしてねェっつってんだろ。』
優の謝罪にはァ、と大きくため息を吐き若干うんざりしたような感じで言う。
そんな烈火に苦笑しつつも、優は道を駆けるスピードを速めた。
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