「また、やらかしたらしいな」
「また?これで何回目よ?」
「いい加減にしてくれないか」
「いつまでも子供じゃないんだから…それぐらいの分別はできるでしょうに…」
今日も、大人たちがうるさい。何も知らないくせに、何もわかってないくせに、迷惑そうな顔で口々にみやたんの悪口を吐いていく。…ああ、うるさいな、不快すぎて嫌になる。こんな汚い大人たちに囲まれて暮らすくらいなら、
家を、出てしまおう。
みやたんがある朝突然いなくなってしまったように、あたしも家を飛び出した。必要最低限のものはショルダーバックに詰め込めるだけ詰め込んだ。携帯のメモリーからは、まわりの大人たちのアドレスは全て削除し、着信拒否に設定。これで、連れ戻されないはずだ。
「さて、いきますか!」
みやたん探しに!みやたんは器用だから、きっとどこかで暮らしているに違いないが、やっぱりあたしにはみやたんの居ない生活なんて考えられないわけで。
「…嫌いになるぞコノヤロー…」
ぽつり、呟いてみた。…う、みやたんを嫌いになるなんて…そんなの無理だ…。ああ我ながら意志の弱さにがっかりしちゃう。でも勝手にいなくなるみやたんもみやたんだよね!あたしに一言も残さずいなくなるなんて、そんな。
「…みやたん…」
みやたんに会ったら一緒に暮らそう、って言おう。いや、その前にあいつの頬を引っぱたいて「心配したんだからねバカ」と罵ってやろう。そうだ、そうしよう。そうして私は、知らない街へと歩を進めたのだった。
知らない街は、1人のあたしを不安にさせた。知らない道路、知らないビル、知らない大人、知らない駅。知らないことばっかり。世界はこんなにも広い。けれどあたしは1人ぼっち、迷子の少女。キミを求めてふらふら彷徨う、迷子の少女。ちょうど渡っている歩道橋の上で空を見上げると、日が暮れかけてきていた。知らない街で、1人で見る夕焼け。
「…全然綺麗じゃ、ない」
滲む視界に夕日をたたえ、あたしは呟いた。おかしいなあ、この前見たときはあんなに綺麗だったのに、何故?
「……」
歩道橋を掴む手にぐっと力をこめる。泣いちゃ、だめだ。泣かないって決めたんだもん。あたしは、泣かないもん。伸びる自分の影をじっと見つめながら、あたしは歩道橋をやっとの思いで渡り終えた。
「次はどこいこうかな」
歩道橋を渡り終えると、駅があった。カンカンカン、と踏切の警戒音が鳴っている。あたしはショルダーバックから手帳を取り出した。手帳の後ろについている電車の路線地図を開いて、ここが何駅かを確認。
「えーっと、ここは…」
カンカンカン
踏切の音が遮って、あたしの思考の邪魔をする。
「うるさいなあ」
カンカンと鳴る踏切の音が疎ましくて、あたしは思わず手帳から顔をあげて踏切を見た。黄色と黒の安全バーと赤く点滅するランプ、そしてカンカンとけたたましく鳴り響く、踏切独特の警戒音。
「……?」
…なにかが、頭の隅で閃いた。この感覚、は…なに…?とても大切なことだけど、思い出しちゃいけない気がする…。
カンカンカン
相変わらず、けたたましく鳴る踏切。線路のうえに、誰か、いる…?
「……ぐ、みや?」
あたしは思わず駆け出していた。ぐみやぐみやぐみや!あたし、キミに会うために、ここまで来たの!ねえ、ぐみや!
「キミに、会いたくって…!」
あたしは、踏切の安全バーをくぐって、線路の上に飛び出した。誰かが何か叫んだ気がしたけど、そんなの気にしないわ!だって線路の上にはぐみやがいて、あたしのことを待って…待って…。
「ぐみや?」
線路の上には何もなかった。カンカンと鳴り響く音に我に返って顔を上げれば、目の前には動く鉄の塊があたしの眼前に
「キミのいない世界のほうが間違いだから」
きっと、
ハッピーエンドだよね
sm13587322:家出少年と迷子少女
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