じりじりと肌を焼くような太陽に、顔をしかめた。全く以て、暑い。屋内にいるからといって、決して涼しいといえるわけではないのだ。時折吹く風が心地よくて、思わず目を閉じた。
暑い暑い暑い。本当に暑い。
「むぎむぎ」
「…なんだい」
「プール、入ろうぜ」
携帯を見ると、ディスプレイには8/27と表示されていた。もう八月下旬。学校のプールは閉じているはずだ。地元のプールはまだやっているだろうが、生憎僕たちはすでに地元から離れ、学校に来てしまっていた。
つまりこの単細胞ガールの考えることは一つしかない。
「学校のプールに忍び込むのさ!」
ガタタン、と座っていたイスを蹴倒して、勢いよく立ち上がったぐみ。
「…忍び込むのさ!」
「わかったから」
みーんみーん、と耳障りな蝉の声が二人しかいない教室に静かにこだました。
***
ざぶり、水が撥ねる。
スカートからジャージにはきかえたぐみは、ブラウスのままプールに飛び込んだ。
「うひゃー気持ちいー!」
つん、と塩素が鼻の奥をつく。
学校のプールはつい最近閉まったばかりなので、青く透き通っていて、太陽の光が水面に反射してきらきらと光っていた。
「プールサイドに突っ立ってないでむぎも早く入りなよー!うりゃっ」
「うわっ冷たっ」
「ふへ、涼しいっしょ」
にへ、と笑って、着衣水泳にも関わらずすいすいと水の中を動きまわるぐみ。
「人魚みたい」
ぼそりと呟いてから自嘲した。
僕は何を言ってるんだろうか。もしかしたら暑さで頭をやられたのかもしれない。
透明なプールに、ぐみが人魚のように水間を縫って泳いでいる。ふと空を仰ぐと、大きな入道雲が青空に映えていた。
もうすぐ、夏が終わる。
夏葬人魚
ずきにさんへ嫁いでいきました。
お題:くのいち様
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