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ず〜っと一緒だよね?


「嬢ちゃん、我輩はすごく喜んでおるのじゃ。」


突然零さんが我が家にむちゃくちゃ高級そうなお菓子を持ってきてそう言った。あまりにも突然でどういう状況か分からない。というか、このお菓子本気で良い奴だ。デパートにあるやつの中で一番高いやつだ。何で急にこんなの持ってきたんだろう。

「零さん、突然来て何なんですか。私別に誕生日でもないですし、これ受け取れないです。」
「お祝い事がある時は何かを送るのは礼儀じゃろう? なぁに、身内なんじゃから遠慮せずに受け取っておくれ。」

だからお祝い事が無いから受け取れないと言ってるのに、零さんは強引に渡そうとしてくる。こういう時にツッコミ役がいればなぁ、大神くんに電話しようかなと思った時、不意に扉が開いた。

「……兄者、何やってんの。」
「おお凛月、ちょうど良いところに! さぁこっちに来るが良い。」
「言われなくても行くよ。でも何で兄者がなまえの家にいるわけ? 意味わかんないんだけど。」

凛月くんが突然来たかと思えば私の横に腰を下ろした。今日は兄弟揃いも揃って、何をしに来たんだろうかと怪訝に思っていたら、凛月くんがふんわりとした笑顔で、おはようなまえ、と声を掛けてきた。かわいい。

「良いの良いの、やはり夫婦が仲睦まじいというのは見てて気持ちが良いのお。」
「あんまり茶化さないでよ。そういうのウザいよ兄者。」

零さんと絡むたびに不機嫌そうになる凛月くんを横目に、零さんって大人っぽいのにやけに子どもみたいな茶化し方するなぁとぼんやりと思っていた。すると零さんは凛月くんと似たような笑みを浮かべて口を開いた。

「いや、茶化してなどおらんよ。本当に我輩は嬉しいのじゃ。なまえちゃんと凛月が結婚することが。あまりにも嬉しすぎてお菓子まで買ってしまったぞ。」

何だか物騒な言葉が聞こえてきた。冗談に決まってるだろうが、目の前にあるとても高そうなずっしりとしたお菓子と、真顔で喋り続ける零さんと、何故か無言を貫いている凛月くんがやけに生々しい。聞こえなかった、今のは聞こえなかった。
すると、膝に置いてあった私の手を、するりと横にいる人物が取った。私の手の甲を凛月くんの手がぎゅっと包む。零さんは気づいてないようだが、この異様な空間に冷や汗が止まらない。包まれているのに手が全く暖かくならない。

「兄者、お祝いしてくれるのはいいけどもうちょっと気をきかせられない? いい加減鬱陶しいんだけど。俺、今からなまえと二人で喋りたいから帰ってよ。」
「そんなストレートに言われると我輩でも傷つくぞ凛月……。でもそれもそうじゃな、じゃあ後は若い二人でゆっくりするが良い。」

じゃあの、と言って穏やかそうに去っていく零さんに、心底帰って欲しくないと思った。今この状況で凛月くんと二人きりにしないで欲しい。

「やっと二人きりだね〜なまえ。」

ほら、急に動き出したじゃないか。凛月くんに後ろから抱きしめられ、ドキドキする。別の意味で。色々聞きたいことがあったが、聞いたら終わる気がしたので、もう何も喋らないことを決めた。

「兄者に何もされなかった? 大丈夫だった? 俺、兄者となまえが部屋に一緒にいるの見て驚いちゃった。もしかしてなまえが浮気してるんじゃないかって思っちゃったけどそんなことないよね。でもこれからもし別の男と一緒にいたら不倫になるからね? 絶対俺以外の男の人と一緒にいないでね? 」

そもそもお前は彼氏じゃない、とか不倫って何ですかとか色々言いたいことはあるが我慢だ、我慢。

「はぁ〜……。なまえめちゃくちゃ良い匂い……。これから毎日こうやって出来るって思えば幸せだよね……。こんなんだから外には出したくないなぁ……。」

どんどん抱きしめる腕の力が強くなってくる。私の後ろ髪をすんすんと匂っているのが分かり、怖くなってきた。言っていることも物騒で、早くこの時間が終わって欲しいと思った。

「結婚式の日取りやっと決まったんだよ。急で申し訳ないけど一週間後にはするの。だからとりあえず今からなまえには俺の家に来てもらうから。」
「……え。」
「ああ、そういえばなまえの近くにいるあの男も一週間後にはなまえと式あげるとか意味分かんないこと言ってたなぁ。」

その言葉を聞いた時、私は冷静ではいることができなくなった。そうだ、私は後少しで彼と結婚することになっている。それなのに、凛月くんは私と結婚するだとか言って後ろから抱きしめている。じゃあ彼は、彼はどうなるんだ。

「……ねぇ、あいつのこと守りたいでしょ? じゃあ俺と結婚した方が良いと思うよ。」
「え、ど、どういうこと? 凛月くん、あの人に、へ、変なこと、してないよね?!」
「さぁ、どうだろうねぇ。」

クスクスと笑う凛月くんに、恐怖しか感じない。でも、このまま断れば彼の身に危険が及ぶのは明らかだった。

「さぁ、行こう、俺の家に。」

そう言って差し出した手を、震えながら握ることしかできなかった。やけに弾んだ声で、ず〜っと一緒だよ、と言われて、私は力なく頷いたのだった。

( まぁ、あいつはもういないんだけどね。)