一生一緒だ!
おはようございます。なまえです。私は今人生最大に震え上がっております。
「なまえ! すごい綺麗だ! インスピレーションが湧き上がりそう…! 」
「ほ、本当? ありがとう月永くん。」
「おい、なまえ。名字で呼ばないって言ったよな。だってお前も月永になるんだからな? 」
「ご、ごめんねレオくん。」
はしゃいでいたかと思うと急に声が低くなったのが怖すぎてうまく言葉にできない。そもそも今何をしているかというと、現在は結婚式に使うドレス選びをしているところである。え? 幸せな場面じゃねえかふざけんなって? そんなことは全くない。少なくとも月永くんは幸せだろうが、私は全く幸せではないのだ。話は遡れば一週間前のことになる。
「結婚してくれ! 」
急に月永くんが私の家に転がり込んできたかと思うと突拍子もないことを、キラキラした目をしながら言ってきた。月永くんが突然来て一通りこちらを巻き込んでから帰っていく(場合によっては泊まってもいく)のはよくあることだったので、軽く流そうと思っていた時、
「ほら、役所から貰ってきたんだよこれ。」
月永くんがカバンから取り出した紙切れを見て私は目を見張った。こ、婚姻届だ。ここまで具体的に来たのは初めてだったので妙にドキドキしてきた。流されるな流されるな。
「つ、月永くん何これ? 」
「? 婚姻届だけど。」
「そういうことじゃない。これが婚姻届なのは分かってるんだけどね、まず私たちはお付き合いもしているわけじゃないのに色々すっ飛ばしすぎじゃない? 」
「でも俺はなまえのことが大好きだから問題ないだろ? 何が駄目なんだ? 」
目を丸くして尋ねてくる月永くんに頭を抱える。これはもしかして告白なのだろうか、よく分からない。困り果てる様子の私に、レオくんが続けた。
「だってなまえが俺の妹見てこんな妹欲しいって言っんじゃんか!」
「そ、それで勝手に結婚に繋がるなんておかしいよ。と、とりあえず落ち着こう月永く…っ」
私が言い終わる前に月永くんが私をドンと倒してきたかと思うと、私の上に馬乗りになってきた。驚いて月永くんを見ると、彼は同じように笑っているのに、どこか違う雰囲気を感じた。
「……なぁなまえ。結婚してくれるよな? な?」
彼の手が私の頬をソッと撫でる。それがこの場とのアンバランスさを際立てて、妙な恐ろしさを感じた。
「…つ、月永くんこんなのやめようよ…怖い…。」
「……なぁ、何でうんって言ってくれないんだ? なぁ? 俺がなまえと結婚したいって言ってるのに何で?ちょっと俺よく分かんないんだけど。」
「つ、月永くん、そ、それは」
「ああっ待って! 答えを言わないで! 」
月永くんはそう言ったかと思うと私の首に両手を回してきた。え。
「分からない、分からない……。何でなんだ? なまえはどうして俺と結婚してくれないんだろうな? 」
言いながら彼は私の首を絞めてきた。苦しさで暴れるも、月永くんが馬乗りになっているため逃れることが出来なかった。息が苦しい。嫌だ。死にたくない。死にたくない。
「……なまえ、分かったぞ。恥ずかしいんだな? だから俺と結婚してくれないんだな? 」
意識が朦朧としてきたところで月永くんが首から手を離した。足りない息を取り込もうと咳き込む私に月永くんはうっとりしながら言う。
「なぁ、なまえ。恥ずかしがらなくていいんだぞ。お前の本当の気持ちを言ってほしい。大丈夫、俺は笑ったりしないから。でもそれでも拒否するんだったらさ、」
月永くんの手が私の首まで伸びる。また首を絞められるのか。嫌だ。嫌だ。
「……分かるよな? 」
両手が首に回ったところで私は涙を流しながら必死で頷いた。あの苦しさを味わいたくなかった。怖くて怖くて震えていると、レオくんがふんわりと抱きしめてきて、ああようやく解放されるのか、と思うと、レオくんは私を地獄へと突き落としてきた。
「いい子だな、なまえ。大丈夫、絶対幸せにするから。……なぁ、首絞めてる時のお前の顔見てたら、抑えられなくなっちゃったんだけどさ、いいよな? 」
そう言って硬直する私を好き放題して、最大級のトラウマを植え付けていった男と、どうして本格的に結婚の話をしているんだろうとぼんやりと思い出していた。
私の怯えを余所にウキウキとドレスを選ぶ彼に、これからどうなるだろう、と不安しか感じない。
「なまえ、帰ったらさ、新しい家見に行くぞ! 」
「あ、うん……。」
「なまえはどんな部屋がいい? どうせずっと家にしかいれないからお前が好きなようにしていいぞ! 」
「うん……。て、え? 」
ちょっと待て。この人今何て言ったんだ。私の空耳ならいいんだけど。
「どうせだったら地下室とかある所が良かったんだけどまだそこまで稼いでるわけじゃないしな。それに鍵も厳重にしてたら絶対に出れないようにはするし、防音もバッチリだからたぶん大丈夫だよな! ベッドは大きめの方がいいか? キッチン用品とかはよく分かんないから通販使ってくれていいからな! 欲しいものがあれば俺が買ってくるけどな。」
何だか頭が痛くなって半泣きになっている私と目が合ったかと思うと、にへらと可愛らしい、でも全然可愛くない笑顔を見せてきて、こう言った。
「なまえ、一生一緒だな! 」
彼のワハハハハという特徴的な笑い声が響いた。
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