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「また写真の揉み消しですか?もう何回目なんですか、プロデューサー殿は?あ、モテ自慢ですか?アイドルにモテモテのただの一般人であることを見せびらかしたいとか?随分と自己主張が激しいようだ、やはり敏腕プロデューサーとなると自ら主張していかないといけないようです、いやはや勉強になりますな!」

んなわけねぇだろ。
という声を何とか押し殺し、「申し訳ございません……。」と蚊の鳴くような声で呟いた。なんとまぁ情けない。
ここはコズプロ。完全に茨くんの支配下の事務所である。そんなところになぜ私が来たかというと、まぁ仕事で来たこともそうなのだが、あるスキャンダル写真の揉み消しを頼みに来たのだった。

「で?今回は誰ですか?以前は明星氏でしたがまた彼ですか?」
「れ、レオさんです……。」
「ほう、月永氏でしたか!いやー素晴らしい!あのような難しい方をよく手懐けたものだ!ぜひそのテクニック、見習いたいものです!」
「喧嘩売ってんの?」

思わず出てしまった言葉にハッとして口を押える。思ったより低い声だった。イライラしてきている。いかん。今は私の方が圧倒的に立場が下なのだ。煽られて怒っているようじゃ茨くんの思うツボだ。今は茨くんの手のひらで踊っている場合じゃない。チラ……と茨くんを見ると、ニヤァ……ととても邪悪な顔で笑っていた。アイドルがする顔じゃないだろ。

「名前さんあなた、自分に頼りに来たんですよね?それでしたら自ずとどういう言動をすれば良いのか分かってると思うのですが……」

ニコリ。茨くんは笑っている。その腹の中は私をからかってやろうという魂胆が丸見えである。わなわな、と怒りで体が震えたが、アイドルの今後を考えても、やることは一つしかない。

「お願いします!茨様!」

私は情けないことに同い年の男の子に頭を下げた。う、うう……悔しい。悔しすぎる。この業界、頭を下げることは多いが茨くんに頭を下げるのは屈辱すぎる。悔しさに体を震わせていると、頭上から高笑いが聞こえてきた。

「アッハッハッハ、いいですね!みんなのプロデューサーがスキャンダル写真を撮られて自分の下手に出てるというのは気分が良いものです……☆にしても、どうして毎回俺のところに来るんですか?それこそ猊下や朔間氏に頼めばよいではないですか!あなたの言うことなら何でも聞くでしょう、あの方たちは。」
「お、恐ろしいこと言わんでよ!そんな甘くないよ、あの人たちは……。二人同時に怒られたりするよ、めっちゃ怖いんだから。」

言いながら思い出す。あの夏の日を……。ああ怖。二度とあんな目に遭いたくない。大体、英智さんも零さんもいつも対立構造にいるのに、ああいう時だけ息がぴったり合うのはいかがなものか。ああヤダ。嫌なこと思い出した。

「それにしたって、自分よりも貴女にとって頼れそうな方は何人もいるでしょう。自分に頼むのなんて最終手段だとでも思っていそうなものだと言うのに!」
「まぁできれば頼みたくないけどさぁ。茨くんに頼むのは、その……。」
「え……。」
「一番こういうグレーゾーンな仕事に慣れてそうだなって……。」
「ハッハッハ、随分自分のことを悪い人だと認識しているようですな〜。いやはや、参りました☆」

茨くんは大袈裟にやれやれ、とリアクションを取った。いや、悪い人ではないよ。グレーゾーンだと思っているだけで……。茨くん事務所のためだったら何でもやりそうなイメージあるもん。まぁここまで頭を下げているのは別の事務所の人だからなんだけど。そもそもコズプロの所属タレントだったらここまで頭を下げなくて良いのだ。以前に日和さんとご飯行って撮られた時なんて私が頭を下げに行った段階で全て事が済まされていた。早い……と思っていると茨くんに睨まれながらめちゃくちゃ怒られた。「うちの事務所のタレントになんてことしてるんだ!」と。確かに私も軽率だったがそれは日和さんに我儘こかれたからで……と説明したが聞いちゃいなかった。その後にジュンくんと遊んだ時にも撮られちゃって、謝りに行ったら茨くんの顔が般若だった。ごめんよほんと……。

「まぁそこまで言うなら今回ももみ消してあげますよ!その変わり一週間はコズプロで働いてくださいね!」
「うっ……。」
「あら〜?嫌なのですか?でしたらこの話はなかったことに……。」
「やる!やりますよ!」

茨くんがフッと鼻で笑った。ち、ちくしょう……。コズプロで働くと茨くんにやたら仕事を振られるので仕事の量が大変なことになる。まぁ茨くんも社畜なので普段この量を一人でこなしてらっしゃるということなのだが……恐ろしい。そもそもこうなったのはレオさんが取り乱したのが原因だ。後で泉さんにチクって叱ってもらおう。

「それでどの記事をもみ消して欲しいと?」
「あ、あの……これなんですけど……。」
「ハグ写真ですか?公園で?一般人もたくさんいたところで?馬鹿なんですか?」
「茨くんほんと上っ面がなくなってきてるよ。言っとくけど私は腕を回してないので無罪です。レオさんがハグしてきたので。」
「それ、ファンが聞いたらものすごく怒りそうな弁明だな……。だいたい、あなたは油断しすぎなんですよ。日和殿下と買い物に行って撮られた時もジュンとランチ行って撮られた時も、名前さんが断れば済む話だったんですよ。見てくださいあんずさんを!鉄壁過ぎて彼女に懸想を抱いてる人が可哀そうなぐらいです!」
「ぐ、グウの音も出ないけど、これだけは分かって!日和さんは行かなかったら機嫌を損ねそうだったの!日和さんが機嫌損ねたら面倒なの、知ってるよね?まぁジュンくんは友だちだからいっか〜って思った私が悪いんだけどね!」
「ジュンが可哀そうになってきました。」
「何で?」

茨くんの言ったことがあまり理解できずにポカンと口を開けると、茨くんはハア、とため息を吐いた。何かおかしなことを言っただろうか?

「……普通二人で行かねーだろ。」
「え?なんと?」
「そもそも自分も何度か食事にお誘いしたというのに何故自分の時は断るのですか?日和殿下やジュンだけでなく閣下ともこの前食事に行ったと聞いた時ははらわたが煮え繰り返りましたよ!他のメンバーとは行くのに自分とはそんなに行きたくないと?」
「いや、シンプルに仕事の話したくないから。茨くん絶対仕事の話しかしないよね。」
「……………………そんなことはありません。」
「絶対そんなことある間じゃん。」

茨くんとは昼休憩に会ってご飯食べたかと思えば仕事の話、廊下ですれ違った時も仕事の話、たまたま帰りが一緒になった時も仕事の話をする。仕事が終わった後も仕事の話したくない。……まあ仕事しかしてないからしたくないとか言いつつ私が勝手に仕事の話ばっかりしてしまう時もあるのだが。でもずっとではないし!

「まぁ誘われたら断れないってのもあるけど。」
「は?他のメンバーは断れるのに自分の誘いは断れると?」
「うん。」
「ああーなるほど。よっぽど自分のことが嫌いだと!これはこれは失礼いたしました☆」
「いや、逆だけど。茨くんのことは好きだよ。」

時が止まった。ような気がする。こういう時に間髪入れておべっかを言ってくるはずの茨くんが言葉を発さなかった。顔は笑っているけど。胡散臭い笑顔だよほんと。大体勘違いしているようだけど、私は別に茨くんのことを嫌っているわけではない。ただ業務外に仕事の話をしたくないだけだ。

「茨くんは最近こうやって話すようになったから、何でも言いやすいし、仕事とかでも対等に話してくれるし、なんだかんだ助けてくれるから良い人だと思ってるよ。」
「ほー……。」
「だから、茨くんのことは好きだよ。」
「……………………………。」
「茨くん?」
「……自分、用事を思い出したので、今日はとりあえず出てってくれます?」
「え!でも記事の話が、」
「記事は揉み消しておきますから!!!自分はもうそれはそれは忙しいのであなたがいれば集中できませんので!!!早く!!!」
「え?ほんと?ありがとう助かる!!!でも大丈夫?本当にやってくれる?ちょっと痛い痛い無理矢理追い出そうとしないでちょっと!!!!」

バタン!と扉が閉まった。事務所の茨くんの仕事部屋から追い出されてしまった。え?何で?何か変なことした?でも記事の件はやってくれるって言ったしな……。あそこまで焦ってたということはよほど忙しいのだろう。そんな時に訪問してしまって申し訳ない。今度何か差し入れでも持っていこう。泉さんがこの前持ってきたケーキが美味しかったからそこで買おうかな。
とりあえず、今後は身の振り方に気を付けよう。最近周りの大人たちに結局誰が本命なんだ?とか聞かれることが増えてきたから、きっと私の身の振り方が良くないのかもしれない。一年前の感覚で軽々しくご飯に行くのは辞めないいけないな。


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「茨ー次の仕事のことですけど、」
「あーーーーー!!!!!!ったくアイツは何件スキャンダル記事持ってくるんだ、やらかしすぎだろ!!!!!ていうか周りの奴らも!!!!狙いすぎだろあわよくばを!!!!!!それに気付かずノコノコノコノコ着いていって!!!!!話しかけてきたかと思えば記事の揉み消しして?って!!!!!人の気も知らないで!!!!!!俺が食事誘っても行かない癖に他人とのスキャンダル写真のもみ消しするこっちの身にもなれ!!!!!!!それに最後のあれも!!!!どうせ似たようなこと周りにも言ってんだろ!!!!!!あーーーーーーー腹立つ……!」
「茨」
「……ジュン。この後の仕事のことですね。この後ら自分はやらなければならないことがあるので先に現場に入っておいてください。時間までには行きますので。」
「……今回は名前さんの勝ちっすねー。」
「は?」