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- ナノ -
16歳


レオナくん宛に、真っ黒な封筒が届いた。郵便の係が封を開け、わぁ、と声を上げたかと思うと、急いでレオナくんの元まで届けに来た。呼び出されて最初に出てきたのが私だったのに怪訝な顔をしたが、レオナ様に、と手渡された。
念の為中身を確認する。
どうやら、ナイトレイブンカレッジの招待状が来たらしい。

ファレナ様に伝えたところ、喜ばしいことだと一斉に皆に知らせた。その日から入学まで日が短いとのことで、王宮中がレオナくんの入学の準備で大騒ぎになった。例に漏れず私もである。というか、私が一番忙しかった。レオナ様のこと一番知っているのはナマエさんでしょ?と召使いの人たちに嫌味のようなことをチクチクと言われ、あっちに呼ばれ、こっちに呼ばれとこき使われまくっていた。
レオナくんとの明確な関係はおそらくバレてないけれど、一年前のあの日から、レオナくんが前の側仕えをクビにして、私を側に置くようになったので、使用人からの目が厳しくなった。
元々父がキングスカラー家の金魚の糞と周りに陰口を言われていたのもあって、父がこうなら娘もこうか、とわざと大きな声で言われた。ここの使用人は本当に噂話が好きだな、と私も気にしないことにした。

「伝統校とか固そうで面倒だが、しばらくここに居なくて良いと思うと気分が良い。清々するな。」
「またそんなこと言って…。面倒で授業受けなくて留年とか、恥ずかしいですからやめてくださいね。」

レオナくんの部屋で彼の荷物を用意する。王子だから仕方がないけど、少しは手伝ったらどうなのか。相変わらず自分の体よりうんと大きいベッドに体を沈めている。
レオナくんはあの式典の後も変わらず悪態をついていた。その後の王家の重要な儀式にも全く出ようとしない。部屋から出ることも滅多になくずーっと惰眠を貪っている姿は、多くの使用人の反感を買った。お前は側にいながら何をしているんだ?碌に連れ出しもできない、更生もさせない。ただレオナ様の女になっているだけなんだろう?と、何人もの側近の人に嫌味を言われた。残念ながら最後の言葉は真実である。私が何をしていたかと言えば、レオナくんが求めてきた時に答えるのみであった。
私とレオナくんの関係は、あの日から変わった。二人が、というよりは、私が、と言った方が正しいか。私はレオナくんに対し明確に上下関係の線を引いた。そうでなきゃやってられないからである。私が親に訴えれば何とかなるのかもしれない。それこそ貴族と婚姻を結んでここから出て行くのが最も手っ取り早いだろう。そういう話が何回かあったのも知っている。しかし、私にはそれができなかった。チェカ様誕生の式典のあの日のレオナくんの表情がこびりついて離れない。要するに、私はレオナくんを可哀想に思ってしまった。

レオナくんの服の準備が一通り終わり、次に必要なものの準備に取り掛かろうとした時、部屋の扉がキイ、と控えめに音を立てた。そこには小さな影が一つ。

「おいたん、おいたん、あー、あー、」
「え?!」

そこにいたのはチェカ様だった。入ってきた扉の外を見ると、何故か使用人が周りにいない。目を離した隙に歩き出してしまったんだろう。これ、臣下の人にバレたら大変なことになりそうだな。最近歩き出すようになって、色々なところを歩き回るようになったと聞いていたけど、まさかここまで一人で来ると思わなかった。レオナくんの部屋と、ファレナ様の部屋はそう離れていないとはいえ、まだ歩き出したばかりの子どもには遠い。使用人は何をやっているのか。

「チェ、チェカ様」
「おいたんー」
「チッ」

レオナくんは大きく舌打ちをしてゴロリと反対方向に寝返りをうった。チェカ様のいる方向とは逆方向だった。お、大人気ない…。しかし、チェカ様は諦めず、レオナくんを呼んだ。おいたん、おいたん、と最近覚えた言葉をレオナくんにぶつける。
チェカ様は、何故かレオナくんにすこぶる懐いている。レオナくんを見つければ走り出して彼の方へ向かってくるし、よく使用人に抱っこしてもらって彼の部屋に遊びに来た。レオナくんはというと、だいたい面倒臭がってこんな感じに寝転ぶか、たまに気が向いたら魔法で遊んであげていた。きっとそういうところがチェカ様のハートを掴んでしまっているんだろうに、どうして気付かないのか…。

「おいたん、おいたーん。う、う、」
「!…おいナマエ。チェカの相手しろ。」
「か、かしこまりました。」

レオナくんがあまりにも無視するから、チェカ様が泣き出しそうになって慌ててチェカ様の元へ行く。私が声をかけると、チェカ様はパア、と微笑んだ。可愛らしい。昔のファレナ様によく似ている。レオナくんはきっとそういうところも憎くて堪らないのだろう。




チェカ様がレオナくんの部屋のあらゆるものに興味を持つので、見ているこちらは気が気でなかった。一瞬棚に飾っている花瓶を触りそうになって慌てて止めた。怪我させたら不敬罪、不敬罪…!!!と思いながら必死で接する。やっと絵本に落ち着いてくれた時はちょっと泣きそうになった。使用人さん何やってるんだとか言ってごめんなさい。こりゃあやんちゃだ。今は私の膝の上でうつらうつらとしている。1歳の赤子、末恐ろしい。

「…お前って子ども好きなのか?」
「え?好きですよ。王宮に私達より下の子がしばらくいませんでしたからね。やっぱり可愛いなって、思いますよ。」
「ふーん。」

レオナくんはスッと目線を下げた。これは機嫌が下がった時の仕草だということは理解していたので、何故なのか頭を巡らせる。思いつく理由があるとすればチェカ様だけど、何故。確かに1年前はチェカ様が理由で怒っていたけれど。あの時のことをまた思い出して頭を振る。あの時はそうだったけれど、最近はチェカ様と遊びたくないからとすぐに私を身代わりにしてくるので、結局私もチェカ様とよく遊んでいた。あの時の怒りはなんだったのだろう。
コンコン、とノックの音が聞こえたので、どうぞ、と伝えると、チェカ様の使用人が入ってきた。顔は青ざめていたので、割と大騒ぎになっているのだろう。チェカ様が私の膝上で寝ていることを確認すると、使用人はぺこ、と頭を下げた後、チェカ様を抱えた。扉に向かったので私も一緒に向かう。送迎のつもりだった。
使用人は私の顔をチラと見て、「いつまでレオナ様の側にいるつもりだ?この忙しい時に。」と漏らした。またか、と思って申し訳ありません、荷物の準備終われば向かいます、と言って頭を下げた。こうするのが一番早いと母にはよく言われた。母も同じようなことはいっぱいあったらしい。

「お前こそいつまでいるんだよ。さっさとガキ連れて帰れ。」

レオナくんの声が近くに聞こえたので顔を上げると、すぐ隣にいた。使用人を睨みつけている。使用人は、あ、とかその、とか言っていたが、レオナくんがグルル、と唸ったため、失礼いたしました、と言いそそくさと出て行った。チェカ様はぐっすり寝ていたのか、起きなかった。今は意味が分からなくても、あのような言い合いを効かせるのは嫌だったので良かった。
レオナくんは、一つあくびをした。わざわざ言い返すために立ち上がってくれたんだとしたら、あのレオナくんにしては珍しいことだ。

「ありがとうございます。」
「別に。」

レオナくんは頭を掻きながら再びベッドへゴロンと寝転んだ。少し照れた時の仕草が昔と変わらない。それに少し安心した。
再び準備に取り掛かる。荷物はいっぱいいっぱいになっていた。馬車に入らないから、あまり荷物を多くするなとお達しがあったのに、これじゃあ厳しいだろう。再び服の選定をすることにした。寮服や式典服、体操服などは支給されると聞いているので、もしかしたらフォーマルとかはあまり要らないかもしれない。ゴソゴソ、と荷物を漁った。

「…。」
「…。」
「レオナくん。」

レオナくんの耳がピクリと動く。

「レオナくん、入学おめでとう。」
「…。」
「ゆっくり、何にも囚われないところで、休んできて。楽しんできてね。」
「……。」

そう言って要らない服を別のところにまとめる。それでも荷物が減りそうにない。これ以上どうしようかな。そう悩んでいると、ゆらり、レオナくんが私の前まで来ていた。座って作業している私に合わせて彼もしゃがむ。そのままじっと目線があったかと思えば、彼は私の肩に頭を乗せた。レオナくんのふわふわな髪の毛が首に当たって少しくすぐったい。彼はそのまま無言だった。

「頑張ってね。」
「…うん。」
「たまには帰って…」
「は?無理。」
「いや、それは国のために帰ってきてくださいね。」
「急に敬語に戻るなよ。」

レオナくんと私はしばらくそのままでいた。お互いにその後は、何も話さなかった。何となく、ずっと敬語で話していたから私も照れ臭い。

「お前は寂しいとか微塵も思わねーのか?」
「思いません。」
「は、即答か。」


レオナくんはハハ、と珍しく口を開けて笑っていた。