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地球破壊爆…


ネタバレはしてないけど6章後半の匂わせあり



「邪魔するぞ、って、レオナ先輩いないのか。」
「え、ジャミルさん一人ですか?レオナさんはいないですよ。」

突然オンボロ寮に来たと思えば勝手に入ってきているジャミルさんは、レオナさんを探しにきたらしい。一通りきょろきょろした後、ふう、と我が物顔で談話室のソファに座った。まぁ確かにこの寮には何回も来ているだろうけど、それにしたって慣れすぎじゃない?良いけどさ……。せっかくジャミルさんがくつろいでいることだし、紅茶でも入れようかと思ってキッチンまで行こうとしたら、ジャミルさんが「チャイでよろしく頼む。」と言ってきた。え、何……?いつもむしろ率先して手伝ってくれてるのに、何か……あの姿、誰かと似ている気が……。

言われた通りチャイを持っていくと、ジャミルさんはありがとう、と言ってカップを受け取った。というか、何故レオナさんを探しに来ているというのにここでくつろいでいるのだろう。私もどうしてもてなしているのだろう。確かに今日はレオナさんがここまで来る日だけど……っていうかほぼ毎日来ているけれど……。

「あの、ジャミルさん。レオナさんならいませんけど、何故ここに……。」
「ん?いや、ここに行けば必ず会えると思って。寮にはいなかったしグラウンドにも植物園にもいなかったからどうせここだろう。そして、今から探しに行くよりここに残っている方が絶対に会えるからな。しばらくここにいさせてもらおう。」

そ、そんなぁ。レオナさんがここに来るまでいられるととっても困る。レオナさん、ただでさえツノ太郎のことでイライラしているのに、ここ最近は同級生たちにも敏感になってきて、嫉妬の化け物みたいになってきているのに。ジャックが最近つんけんした態度を取られると言ったときは平謝りした。後輩に大人げない……まぁ私が一番悪いんだけれども。そんな時に私がジャミルさんと密室で過ごしていたと思われてみろ。みるみるうちに寮が砂まみれになってしまう。ここは急いでジャミルさんを外に出さねば。

「レオナさん今日部活ですよね?今戻ったらグラウンドにいるんじゃないですか?」
「いや、俺がここを出て行った間に戻ってきたら、入れ違いになるだろう。ここにいる方が良い。」

良いって……家主の許可もなしによくしゃあしゃあと……。ジャミルさんは再びカップに手を付け、チャイをゆっくりと飲みだした。うーん、どうやってお帰り願おうか……。それにしても、何故私が気を遣ってるんだ?私、一応ここの寮長的存在だよね?普通に帰ってって言えば良くない?いや、でもジャミルさんには主に食料面で本当にお世話になってるし、無碍にするのもなぁ。ジャミルさんのご飯、美味しいんだよな。最近スカラビアに行く頻度が減ってきたけど、また行きたい。って、そうではなくて。そうだ、ジャミルさんの目的が達成したら帰るんだし、何をしに来たか聞けば良いんじゃん。私が代わりに聞けそうだったら聞いて、学校で会ったことにしておいたらそれで良いだろう。

「ジャミルさんは何故今日ここに?もし伝言とかだったら伝えておきますけど。」
「古代語で分からない所があるから教えてもらおうと思ったんだが、どこに行ってもいない。確実にサボりだな。だから伝言ってわけにはいかないな。」
「え、こ、古代語?それってもしかして2限のやつですか?!」

共通科目の古代語、ただでさえ異世界やら魔法やらでわけがわからないのに、こちらの言語のさらに古代語ときたらもう私にはお手上げだった。そういえばジャミルさんの姿を授業で見た気がする。基本的には同級生と一緒に過ごしているから、ジャミルさんにめちゃくちゃ話しかける、ということはなかったが、ジャミルさんはとっても優秀だった。会った頃に比べれば、格段に成績も上がっていると思う。そんなジャミルさんでも分からないところが発生している古代語を、私が理解できるはずもない。それを、レオナさんに質問しにきている……!

「わ、私も一緒に聞きたいです!」
「そうか。じゃあこのまま待ってても良いだろうか。」
「良いです良いです!あ、でも、レオナさんに上手いこと言ってくれますか?」
「上手いこと?」
「え、ええと。私とはあんま喋ってないとか、もしくはレオナさんが帰ってくるちょっと前に来たとか、話を合わせてくれると……。」
「……ああ、君もなかなか大変だな。」

ジャミルさんを目を細めて、やれやれという顔をした。もうレオナさんとツノ太郎の騒動は学園中の知るところとなっている。ジャミルさんみたいなまともな人に呆れられると、ちょっと恥ずかしい。まともじゃないもんね、そうだよね。

「話は合わせるよ。レオナ先輩からは連絡は来てるのか?」
「あ、さっき来てましたよ。もうちょっとでオンボロ寮まで行くって。」
「そうか。俺もそこまで長居するつもりはないんだ。カリムに夕食を作らないといけないからな。」
「わー、ジャミルさんのご飯良いなぁ。」

ちょっと前に食べたご馳走の数々を思い浮かべる。カリムさん主催の楽しい宴、みんなでご飯を囲んで……ああ、懐かしい。まぁその宴に釣られて大変なことになったこともあるが、それを経てカリムさんともジャミルさんとも仲良くなれて良かった。最近自由に色んな人と会えてないな、私が選択をミスったばっかりに……。

「じゃあ待ってる間に何か簡単なものでも作ってやろうか?」
「え?!本当ですか?!」
「ああ、じっと待ってるだけっていうのもアレだし、どんなに弁明しようがレオナ先輩は機嫌悪くなるだろうからちょっとでも良くなるようにな。」
「て、天使……?」

ジャミルさん、本当によく人のことが分かっていらっしゃる……!私がジャミルさんのご飯が食べたい気持ちも、今後のレオナさんのことも考えてくれて動いてくれるなんて……。何と良い人なんだろう。あんなに大暴れしたとは思えないな。あれは幻想だったと思いたいぐらいだ……。

「早速だが、キッチンを貸してくれ。」
「大丈夫ですよ、じゃあ──。」

私がそう言った瞬間、何かが私の横をものすごいスピードで横切った。黒い何かだった。ちら、と過ぎていった方を見ると、このオンボロ寮でよく見るゴ………に似た虫だった。ちょっと大きい。しばらく出てなかったのにやだなぁ。なんか紙なかったかな。丸めて潰そう、と思って歩こうとした瞬間だった。

「動くな!」

ジャミルさんが叫んだ。悲壮感たっぷりの顔である。思いっきり私の腕を掴んだ。

「え、動かないと始末できませんよ。」
「ダメだ!始末しようとして飛んだらどうするんだ!!!」
「いや、そーっと近付いて垂直に叩けば……。」
「ダメだ、ダメダメ!とにかくダメ!」
「退いてくださいよ!あいつ殺せない!!!見逃して大量発生したらどうすんだ!!!」
「ちょ、待て!ナマエ動くな!あ、それ以上近付いたら、ギャアアアア!!!!」
「おい!騒いだら逆に襲ってくるんだよ奴らは!!!ちょ、ジャミルさん落ち着いて!!!ジャミ、」
「ヒィ!」

ジャミルさんは断末魔のような声をあげたと思えば、私の腕を引っ張ったままバランスを崩した。ジャミルさんの近くを凄い勢いで横切りどこかへ逃げる虫。全てがスローモーションに移る。やばい、倒れる。体支えきれない。

「おいナマエ。さっき電話かけたのに出ねぇとはどうなってんだ、…………あ?」

レオナさんの声がしたと思って、衝撃に耐えるために閉じてた目を開けると、眼前にはジャミルさんの顔があった。え、近くない?ていうかなんか、ジャミルさんが私の上に跨っている…………………。
私の上に跨っている?

「ほぉ……………………俺がいない間に随分お楽しみだったようで……。しかもまーた新しい男か?懲りないなぁお前も……。」
「ご、誤解!誤解!」
「何が誤解だテメェ、白昼堂々と浮気しやがって……。早いとこ籍入れて王宮に閉じ込めんぞ、ああ?」
「いやもうこれは海より深い訳があるんですよ、ねえジャミルさん?!」

何でこうなるの?!さっきまで和やかにジャミルさんのご飯が久しぶりに食べられる、って思ってたのに。たかが虫一匹で……。ジャミルさんは虫が嫌いって、聞いてたけど、聞いてたけどさぁ!そして己のこのラッキースケベ体質の少年漫画のハーレムもの主人公みたいなスキル、何とかしてほしい。普通こんなことありえないでしょ、何でこうなるのよ。レオナさんの口調もだんだんヤのつく方になってきてるし、こんなことになるんだったらさっさとジャミルさんには帰っていただくんだった。それにしても、助けを求めているのにジャミルさんが一向に動かない。ちら、と彼を見ようとしたら、ジャミルさんが何故か私の腕を取って縋るような目で見つめてきた。

「ナマエ……頼む……そこに……(虫が……。)俺では処理できない、だから……。」
「おいおいおい大事なとこ省略しないで。」
「…………………………………………。」

やばい、本格的に不機嫌になってらっしゃる。これは非常にまずい。明日の朝日、拝めないな。こうなった原因の憎き虫を見つめる。私よりちょっと離れたところにいる。仕留めようにもジャミルさんが上に乗ってるから仕留められない。普通に考えれば分かることなのだが、ジャミルさんの表情が完全に思考停止している人のそれなので、多分いつもみたいに冷静な判断ができてないのだろう。

「ジャミルさん、ちょっと退いていただけると……、」
「ひぃ!ナマエ、動くな!今ヤツがちょっと動いた!」
「そんなこと言ってたらずっとこのままですよ……。」
「……ヤツ?」

レオナさんが怪訝な表情をしながらジャミルさんの言ったことを復唱した。もうここはレオナさんにお願いするしかない。

「れ、レオナさん。そこに虫がいると思うんですけど、始末していただけますか?」
「虫?……ああそこのヤツか。」
「そうですそうです!ジャミルさん虫が嫌い過ぎてこんなことになってるんですよ」

レオナさんが視界に虫を捉えた。ああ、ほんとあの虫おっきくて気持ち悪い……。ここにもあのゴ………に似た虫がいると思うと、虫ってやっぱ物凄い生命力だなって思うよ。レオナさんは途端に瞳孔が開いた。ああ、近所の野良猫と一緒の目をしている……。やはりレオナさんはライオンの獣人なんだなぁ。ジャミルさんはというと、殺されるのも見たくないのか、目線を逸らしてあろうことか体を私にまで寄せてきた。おい!!!

「ジャミルさん!!!大丈夫ですから!!!レオナさんがすぐ殺してくれるから!!!だから体離して!!!」
「無理だ……アイツらを最後まで視界に入れたくない……しかもレオナさんが失敗したら飛んでくるかもしれないじゃないか……!だからこうやって出来るだけ姿勢を低くしてアイツらがこっちに来ないように……、」
「やばいな、とても熟慮の精神があると思えない……!れ、レオナさん早く、」
「ナマエ、どうしても俺にやって欲しいか?」
「そ、そりゃあね!この状況でできるのがレオナさんだけだからね!」
「じゃあおねだりしろ。」
「え。」

レオナさんが真顔でそう言った。思わず口をあんぐりと開けてしまう。

「お、おねだり……?」
「ああ。何かナマエが襲われていて俺が助けにきたシチュエーションだなと思うと興奮してきた。」
「わー綺麗な顔から聞きたくない言葉が続々と……。」
「良いんだぜ?俺は虫がいようが何だろうが気になんねぇからなぁ。でもお前らはこのままだったら困るってわけだ。まぁ俺がこうしてる間に虫は逃げちまうかもしれねぇがな。」

くっ……たかが虫でドヤ顔しやがって……本来だったら私が仕留めるというのに……。どうやらレオナさんは、この数分間で私とジャミルさんの間に何があったかを理解し、理解した上で私を弄ぶモードに入ったらしい。まぁ楽しみたい気持ち半分、私が他人と仲良くしてたのが気に食わない半分だろう。まぁでもおねだりしたらやってくれるならそれで良いけど、念のため何を言わないといけないのかだけは確認した方が良い。

「ち、ちなみに具体的にどんなおねだりを……。」
「そうだなぁ……。『レオナさん、どうか私の代わりにその虫を始末してください。私のことはこの後好き勝手にしてくれて構いません。ぐちゃぐちゃに噛んでください』だな。」
「ひ?!」
「あ、語尾にハートマーク付けろよ。」
「か、勘弁……。」
「じゃあ俺はやんねぇ。」

そう言って無遠慮に部屋をドカドカ歩き、ソファまで向かった。ジャミルさんがレオナさんの一挙一動によってまた叫ぶ。幸いにもこのやり取りがあんまり頭に入ってきてないようで、ジャミルさんはもう虫に夢中だった。悪い意味で。
レオナさんが動いたことによって、虫が若干動きを見せた。黒々していてほんと気持ち悪い。あーレオナさん相当怒ってんな……。ここはやっぱ、ジャミルさんを退かして私が仕留めた方が良さそうだ。

「ジャミルさん、あの──。」
「──動いた。」
「え。」
「さっきより確実に俺らのところまで来ている……。もう誰も動けないんだったら、ここは……俺の炎の魔法で殺すしかない……!」
「ちょ、ジャミルさん!落ち着いて!そんなことしたら私の寮が燃える!!!」
「燃えカスにしてやる……アイツら一匹残らず駆逐してやる……。」

ジャミルさんの様子がおかしい。彼はゆらり、と立ち上がる。レオナさんはそれを見ながらくわぁぁ、とあくびをした。いやいや、ジャミルさんいくらなんでも取り乱しすぎでしょ。反応がネズミを見つけたドラ◯もんみたいになってんじゃん。まぁあれは世界を滅ぼしかねん状況だったけど、こっちは寮が滅んでしまうよ。せっかくちょっとずつ綺麗なってるというのに!こんな時にも呑気にボーっとしているレオナさんを見やる。レオナさんは私を見つめていた。何かを試しているような目だ。

「ダメダメ落ち着いて!!!!」
「ひひ、ふふふふひへへ。」
「ダメだ、全然聞こえてない……!レオナさんも何見てんですか!!!早く止めて!このままじゃオンボロ寮燃えちゃう!!!。」
「別に寮が燃えようがどうでも良い。お前とあの狸をサバナクローまで連れていきゃ良いだけだし。」

そう言うとレオナさんはゴロリとソファに寝転んだ。サバナクローって……。本気でそう思ってそうなのが怖い。ダメだよ、オンボロ寮が唯一一人の空間なのに、燃えてしまってレオナさんの部屋で過ごすなんて……その後のことを思えば絶対にダメだ。もう一人の嫉妬の化け物を呼び起こしてしまう。でももうジャミルさんは正気じゃないから私が虫に近づけないし、どうしたらオンボロ寮が炭になるのを防げるだろうか。

「おねだり。」
「………………………。」
「ナマエ、俺だったら砂だ。炎じゃなくて砂。お前が掃除するだけで済む。そうだろ?」
「…………………………………………………。」
「まぁ嫌って言うなら良いんだよ。このまま寮が燃えて、晴れてお前は俺の部屋で楽しく過ごすってわけだ。俺としては好都合だからなぁ?」
「れ、レオナさん。」
「あ?」
「レオナさん、どうか私の代わりにその虫を始末してください。私のことはこの後好き勝手にしてくれて構いません。ぐちゃぐちゃに噛んでくださいっ!」

勢いで早口で言った。あー恥ずかしい。人生で一番恥ずかしいことを言わされた気がする。ん?まてよ?何か前もこんなことあった気がするけど……。いや、でもこんなん言わされたの初めてだよな……。何でだろう。まぁでもそんなことより、恥ずかしいことを言わされたという自覚により、顔が真っ赤になったので下を向いた。もう、何だってんだよ。
すると、私の顔を横切って、何かが虫に当たった。虫はそのまま砂になった。レオナさんの魔法だろう。

「!じゃ、ジャミルさん!むし、虫レオナさんが始末してくれましたよ!」
「はっ……俺は何を。」
「ジャミルお前いい加減にしろよ、ナマエに頼ってんじゃねぇよ!」
「……レオナ先輩。俺はまたあなたに助けられましたね……。お騒がせしました。」
「本当にお騒がせだよ、なぁナマエ?」
「は、ははは……。」

そうは言いながら、明らかに機嫌が良くなったレオナさんに、私は肩を組まれていた。ああ、この後に待ち受ける展開を予想したら憂鬱になる……。

「ナマエ、すまない。俺が取り乱している間に、カリムの夕食の時間になった。ナマエの分のご飯はまた作りに来る。」
「お、お願いします……。虫除け買っとくので……。」
「あ、レオナ先輩。今度古代語教えてください。」
「面倒だな、何で俺が……。」

その後はジャミルさんとレオナさんが言い合いをしていたが、もう私は疲れ果ててしまって何も頭に入って来なかった。



────


「ではまた。」

ジャミルさんはちょっと気まずそうにしながら寮を去った。できればもうちょっとゆっくりして欲しかったな。だってさ……。

「ナマエ。」
「ひ、」
「ベッド行くぞ。」
「は、早くないですか。」
「あんな風にお願いされちゃあそれに応えてやらなくちゃなぁ……?」

レオナさんが言わせたくせに……!と思いながらも、流されワカメの私は今日も断りきれずにレオナさんの思い通りになるのであった。

後日、ジャミルさんから大量の作り置き用のご飯が届き、しばらくはスカラビアの料理を堪能したのでジャミルさんのことは許すことにした。