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- ナノ -
一日奉仕致しますA


「お、おかえりなさいませ、マレウス様…。」
「ほらもっと可愛らしい声を出さんか。やり直し。」

リリアさんがニッと笑ってそう言った。こんなかわいい顔をしながらもう同じことを10数回させられている。何故かツノ太郎は一向に来ない。リリアさんが言うには、大事な次期当主を任せるには色々仕込まないといけないらしく、特訓と称して色々遊ばれていた。服は確かにシックな黒色のメイド服で可愛かったし、モストロラウンジの制服よりスカート丈も長くてあまり恥ずかしくない。けれど、それよりもっと恥ずかしい台詞を言わされているから一緒だった。リリアさんの手にあるスマホがブブっと音を立てる。あれ、私の携帯じゃない?すると、リリアさんが画面をチラ見してニヤ〜と笑った。

「さっきから"レオナさん"ばっかりじゃなぁ。今どこにいるんだ?だと。そろそろ返事してやらんと可愛そうかのう。」
「え、あのリリアさ、」
「あ、と思ったら今度は電話じゃ。うーーーんどうしよかのう。ナマエがさっきからぜーんぜん可愛く言ってくれないからわしも飽きてきたのう…。そうじゃ!レオナにナマエの可愛い写真を送ってやろう!」
「おかえりなさいませ〜!マレウス様ぁ〜!!!」

私は必死でリリアさんにしがみ付いた。リリアさんはニコッ、と笑って私のスマホを机に置いた。鬼だ。流石鬼を作り出した鬼…。顔は優しいのに行動が伴っていない。
なんでこんなことをしているかと言うと、本日はディアソムニア寮でツノ太郎の召使いとしてアルバイトをすることになったからだ。私は大丈夫だと断ったのだけれど、ツノ太郎がだんだん強引になってきたので諦めた。まぁ結構高級なバイトだし…。特に変なこともないだろうから…。と自身に言い聞かせている。
昨日の夜からレオナさんが明日会いたいと言ってきたので困り果てた私は秘技・寝落ちのフリを発動してレオナさんからの連絡を無視した。幸いにもリリアさんが早朝に迎えに来てくれたので、ラギーさんが焦って迎えに来る前にディアソムニア寮へ行くことができた。ツノ太郎との約束を破るのは本当に不味いからな。

「よしよし、その調子じゃったらマレウスも任せられるな!では部屋に案内しよう!」
「リリアさん、遊ばないでくださいよ本当に…。」
「え?わしは大真面目じゃぞ?」

リリアさんは楽しそうに笑いながら部屋の扉を開けた。着いてこい、と言われたので後を追う。寮内の長い長い廊下を潜り抜けていくと、一等大きな扉が出てきた。そういえば、ツノ太郎の部屋には行ったことがない。ツノ太郎はオンボロ寮を気に入っているのでこちらによく来たが、私がディアソムニアへ行っても談話室でお茶を飲んで帰るくらいであった。

ギィ、と古ぼけた扉を開ける音がした。リリアさんが先に部屋へ入っていく。私も遅れて後をついていくと、ツノ太郎がソファでくつろいでいた。

「遅いぞ。」
「そう怒るでない!大事な大事なお主を任せられるかどうか見ていたのじゃ!」
「はぁ。ナマエはおもちゃじゃないんだぞ。」

ツノ太郎は呆れたようにそう言った。そんなこと言えるのか、この人。本人にそっくりそのまま返したい。
リリアさんは悪戯っぽく笑って、私の肩にポンと手を置いた。

「今日は一日頼んだぞ!それまではこのスマホは預かっておくからの!」
「ひ、そ、それは」
「こんなもんがあってはお主も集中できんじゃろ?ま、安心せい。いじったりはせんから。」

そう言ってリリアさんはピュンと瞬間移動した。ツノ太郎とおんなじ魔法だ。ああ、私の携帯…。返ってきても着信件数が物凄いことになっていそうだ。

「ナマエ。何をボーっとしている。」
「はっ、ツノ太郎。こ、こんにちは。」
「ああ。今日はお前は僕の召使いだろう?そこでボーっとしてないでこちらへ来い。」
「へ、へい。」

急いでツノ太郎の元へ行くと、ツノ太郎の顔が綻んだ。この人、ほんと機嫌損ねないと可愛らしいんだよな…。でも今日も何がスイッチになるか分からないから慎重に行こう。絶対にレから始まってナで終わる三文字は今日は発さない。できるなら同級生の話もあまりしない。後この前はなんでもない日のパーティーの話で不機嫌になっちゃったからそれもなし、あ、あとヴィルさんの話も絶対だめだ、あと…あれ、なんか多くないか?

「ナマエ。最初の仕事だ。」
「はい!」
「そこにドリンクがあるから取ってきてグラスに入れて欲しい」
「かしこまりました!」

リリアさんに仕込まれた給仕の台詞を吐く。ツノ太郎の広い部屋の隅に、確かに飲み物の瓶が数個置いてあった。これは何の飲み物なのか。まさかお酒? レオナさんの部屋で何回か見たことがあるけれど、ツノ太郎も飲むのかな。とりあえず一瓶だけ取って、ソファ近くのテーブルに置いた。グラスは棚に何個かあり、一つだけ取り出してまた置くと、ツノ太郎が不思議そうな顔をした。

「何故一つなんだ?」
「だってツノ…マレウス様が飲むんでしょ?」
「僕はお前と飲もうと思っていた。一人で飲むならお前に頼む意味はない。」
「ええ、でもこれお酒じゃない?」
「いや、これは誰でも飲めるものだ。確かに酒と似たような成分は入っているが。」

ツノ太郎はそう言うと人差指をちょいちょいと動かした。指先からキラキラと何かが光る。すると、すぐにもう一つのグラスがビュンと飛んできた。さらにちょいと指を動かすと、コルクがキュポッと小気味の良い音を立てながら瓶から抜けた。おまけに瓶が浮いて、自らグラスに注いでいく。…あれ、私必要ないのでは。

「よし。ほら、座れ。」
「お、お邪魔します…。」

ツノ太郎に言われた通り、彼の向かいのソファに座った。す、すごい!ふかふかだ…。そのままツノ太郎に注いでもらったグラスをこちら側に寄せると、ツノ太郎が不思議そうな顔をしているのに気が付いた。

「何故そこに座る。」
「え?」
「僕は隣に座れと言ったつもりだった。」
「え、いや、でもせっかくソファが2個あるんだし…」
「今日は僕の給仕なのだろう?側にいた方が何かと動きやすい。ほら、座れ。」

ツノ太郎はポンポンと空いているスペースを叩いた。大人しく隣へ座る。まあオンボロ寮のソファでは基本的に隣同士で座っているから何も変なことではない。ちょっとだけスペースを空けて座ったがすぐに距離を縮められた。スリ、と置いていた手を撫ぜられたので、慌ててグラスを持った。油断も隙もない。今日は仕事で来てるんだからな!

「ツノ、マレウス様、早く飲みましょ!」
「はは、まさか給仕に命令されるとな。」
「あ、いや、その…」
「ほら、何をしている?乾杯。」
「か、乾杯…。」

チン、とグラスを当てる。ツノ太郎はグイッと一気に飲んだ。また魔法でドリンクを注ぎ出す。私は未知のドリンクだったので、怖くてチビチビと飲んだ。甘い桃のような香りがしたのでフルーツジュースだろうか。でもお酒と似たようなものって言っていたから、ワインに近いものかもしれない。ちょっと苦味は残るが美味しい。気が付いたらグラスは空になっていた。ツノ太郎がそれを見てまたドリンクを注ぐ。こんなに飲んで良いのかな。

「美味いだろう。昔からよく飲んでいた。」
「ええ、こんなの昔から飲んでたの…ですか?」
「ああ。リリアが街に行ってはよく買ってきてくれてな。セベクやシルバーもたまに飲んでいるぞ。ほら、遠慮せずもっと飲め」
「え、あ、ありがとう。あ、ございます。」
「ふふ、先程から全く敬語がなっていないな。ふふ、はははは。」

ツノ太郎は今日はよく笑う。ふふふ、と笑うツノ太郎を見ていたらだんだん恥ずかしくなってきた。






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「驚いたな…。まさか人の子がこんなに酔いやすいとは…。」
「ふふふ、へへへぇ〜、つのたろ、もっとちょーだい、ちょーだい!」

ナマエがそう言って僕に抱きついてきた。普段全くそんなことをしてくれないから"お願い"してやってもらってるというのに、酔うとこんなに変わるものなのか。しかしこれは酒に似てるただのジュースだというのに酔いすぎではないか? それとも人間には毒なのか。甘ったるい声で僕の渾名を呼びながらナマエが抱きしめる力を強くしていく。ちら、と顔を見ると、頬を赤らめて、目は熱っぽく潤んでいる。まるで情事の時のようだった。
駄目だ。いくら何でも酔っ払いの時に無理を強いるのは良くない。いつもはお互いに理性ある時にしているし、「合意」の上でしていることだ。こんな相手が無防備すぎる時に手を出してしまうだなんて、妖精族の王として相応しくない。

「つのたろ、なんでだまってるの…?」
「…………。」
「つのたろ、なんかはなして、さみしい…。ね、つのたろ、おねがい……。」

ナマエが上目遣いでこちらを見ている。プツリと何かが切れる音がした。我慢とは。そう思った瞬間にナマエの肩を掴んだ。わ、と小さく声を漏らし、不安そうな顔で僕を見た。堪らずナマエに口付けをする。舌が入ってきてびっくりしたのか、一度ナマエの体がビクリと揺れたが、逃さないように後頭部を手で押さえつけた。

「む、んう…、っはぁ、」
「…………今日は使用人として来たんだったな。ナマエ、今日はお前からリードしてくれないか?」
「えっ…?」

ナマエはパチパチと瞬きをしたと思えば急に恥ずかしそうにもじもじしだした。先ほどまであんなに積極的だったというのに一体どうしてこうなるのだろう。やはり人の心はよく分からない。だからこそ僕はこの女を好ましく思っているし、離したいと思わなかった。

「出来ないのか?」
「は、恥ずかしいよ…いじわる言わないで…。」
「今日は僕とお前は主人と従者の関係の筈だが。主人である僕の言うことが聞けないと?」
「う、つのたろ、にらまないで、ごめんなさい、ごめんなさい。やります、やりますから、」

ナマエは急に青ざめて僕の服の裾を掴んだ。前から思っていたのだが、ナマエは突然僕に対して怯えたような顔をする。僕は決して怖がらせようと思ってナマエに接しているわけではないというのに。
まぁ言うことを聞かない時は今後このようなことがないように教育するときはあったが、人の子は僕が少し真面目な顔をしただけで怯えてしまうのだろうか。今後は気を付けよう。
僕が考え事をしている間もナマエの手は僕の服を掴んだままで、何も始めようとしない。初心なのは良いことだがこうも恥ずかしがり屋だと話が進まない。はあ、とわざとらしくため息を吐くと、ビク、とナマエの体が面白いくらいビクついた。

「いつまでそうしているつもりだ。お前が始めない限り僕は何もしない。」
「う、うう、どうしたらよいかわかんない…」
「じゃあ僕がいつもしているみたいにすれば良いだろう。僕はいつも最初に何をする?」
「いつも…」

ナマエは視線を何度かウロウロさせた後、体を乗り出して僕の頬を掴んだ。ゆっくりと顔を近付けていく。近付いても目を閉じない僕に気付いて、鼻先がぶつかったところで動きが止まった。しばらく沈黙が流れる。ナマエのまん丸な目が揺れ、顔が真っ赤に染まっていく。

「つ、つのたろ」
「何だ。」
「あ、あのね、目を、とじてほしい…。」
「何故だ。お前は知らないだろうが僕はキスをする時いつも目を閉じていない。いつだってナマエの恥ずかしそうにしている顔を見ながら口付けをしているぞ。」

そう言って唇をなぞる。ナマエは目を潤ませていた。

「僕はお前の顔を見ながらしたい。ほら、早くしろ。」
「う、」
「出来ないのか?出来ないのならずっとこのままだぞ。」
「うえ、ううう…はずかしい〜!つのたろ、おねがい、おねがいだから〜」

ついに責めすぎて泣き出してしまった。これが酔っているときなので子どものように泣いているが、普段も割とすすり泣くように泣いている時がある。毎回僕はやりすぎてしまうらしい。まぁ僕から動くのはいつものことなので問題ないが、そればかりだと少し物足りない。せっかくこのような状況になっているのだから楽しまなければ損だろう。
僕はニコリとナマエに向かって微笑んだ。その瞬間、ナマエはパァと表情を明るくさせる。
本当に甘い。甘すぎる。だからキングスカラーにも隙を突かれるのだ。

「僕にものを頼む時にはそれなりに言うことがあるだろう。」
「え…」

分かりやすく固まるナマエを見てさらに笑みを深くする。我ながら悪い顔をしているのだろう。

「分からないか?じゃあ僕が今から言うことを一言一句漏れなく復唱しろ。」
「う、うん」
「私が一番好きなのはマレウス様です。レオナさんよりあなたと一緒にいたいです。マレウス様が一番気持ち良いです。」
「えっ…?」
「ほら、早くしろ。」
「そ、そんなこといったら、れおなさんに怒られちゃう…」
「じゃあこのままだな。僕はお前が動かない限り何もしない。」
「そ、そんなぁ。つのたろ、」

ナマエはポロポロと涙を零した。しかし、こんな状況でもキングスカラーのことを考えているナマエに腹が立ったので、もう僕もこれ以上甘くするつもりはない。しばらくナマエが泣く声が聞こえたが、僕が動く気がないことに気がついたらしく、ずり、とナマエが動いた。

「あ、あの。」
「ん?」
「わ、わたしがすきなのは、つのた、マレウスさまで、れ、レオナさんよりあなたと一緒に、いたいです。ま、マレウス、さまが一番きもちいい、です」

まだ涙を流すナマエの頬を拭ってやる。ナマエがじっとこちらを見た。僕もじっと見つめた後、ゆっくり口付ける。最初は優しく合わせるだけだったが、ナマエが息を漏らした隙にニュル、と舌を入れた。ちゅく、ちゅくとわざと大きな音を立てる。ナマエはギュッと目を閉じていた。キスをしながら徐々に押し倒していき、完全にナマエの背中がソファに着いた時に、彼女の服に手をかけた。




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情事が終わった後の特有の気だるさの中、顔の汗を拭う。
ナマエはもうすっかり寝入っていた。頬を軽く触るがピクリとも動かない。


「撮ったか。」

僕が一声かけると、周囲から小さな光がいくつか出てきた後、リリアが姿を現した。
呆れたように僕にスマートフォンを投げる。メッセージ画面がそこには写っていた。

「撮ったし要望通り奴に送ったが…はぁ。お主は鬼か悪魔か?」
「あの猫に思い知らせるだけだ。あれは僕のものだとな。」
「そんなことせんでも谷まで拐えばあやつも近寄れんじゃろうに。お主がそこまですることないじゃろう。」
「今この瞬間でさえあいつに時間をやるのが惜しい。あいつも同じことを考えているだろう。」
「はぁ何と言うか…。可哀想になぁナマエ。わしができるのはスムーズにマレウスと結ばれるようにすることのみ。此奴に好かれた己を恨むんじゃのう。」

リリアはそういっておいおいと嘘泣きをした。

「可哀想?この人の子は僕といれば幸せだろう。」
「おーおー自覚がない奴は怖いのぉ。」

ケラケラと笑いながらリリアは僕の部屋を去っていった。僕の手に握られたスマートフォンには、キングスカラーに宛てたメッセージが表示されている。これ以上は使い方があまり分からないので触れないが、返信が無いのを見ると今は寝ているのだろう。何と呑気な奴だろうか。口元が弧を描く。

「これは僕のものだ。誰にも渡さない。絶対に。」



未だに隣で眠るナマエに髪を掬ってキスをする。部屋に月明かりが漏れ、僕たちを照らしていた。



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昨日の記憶があまりにも無い。
何で?昨日ジュース飲んでそこから何をしたのか全然覚えていない。分かるのは起きたら私が真っ裸なのでやることやっちゃってるということ。Oh…。
そんな調子だというのに先ほどシルバーさんから封筒を受け取ってしまった。中を見るとお給料が言われていた数より多く入っていた。慌てて違います!とシルバーさんに言ったけれど、

「それがマレウス様のお気持ちだ。」

と言われ、横にいたセベクには

「人間!若様の思いが分からないというのか!受け取れ!」

と、とんでもなくでかい声で言われたので、おとなしく受け取った。私だけで使ってしまうのは何となく気が収まらないので、グリムに買ったこともない高いツナ缶を買うことにした。最近ずっとどっか泊まってもらってるか一人で過ごさせてしまっているからせめてもの罪滅ぼしだ。
帰る前に寮をチラリと見ると、大きな窓からツノ太郎とリリアさんが手を振っていたので手を振り返しておいた。


何だか頭がぼんやりとするなぁ。昨日の記憶が曖昧なのと何か関係があるのだろうか。
そういえば携帯、充電が切れておったぞ!とニコニコしながらリリアさんが返してきたけど、電源戻ったらもうすごいことになってるんだろうな。なんて言い訳しよう。
歩いていると1日ぶりのオンボロ寮が見えてきた。とりあえずレオナさんに連絡するのはちょっと休憩してからにしよう。グリムとも話したいし…。
ガチャ、とドアを開くと、バン!と顔面で何かをキャッチした。急いで剥がすと、半端なく怯えている表情をしたグリムだった。

「ど、どうしたの?!」
「お、おい!お前も早く逃げるんだゾ!こ、殺されちまう…!!!」

そう言ってグリムがビュンと何処かへ飛び去っていった。え、まじ?それ言い残して一人にするわけ?
でもあの様子を見るに私も急いだ方が良さそうだ。そう思ってもう一度踵を返した瞬間であった。


「おかえりナマエ。」

ガッと後ろから肩を掴まれた。このちょっと掠れたような低い声は。

「れ、レオナさん、ただいま〜。」
「随分と長い散歩だったなぁ。早速だがこれを着てもらおうか。」

パラリと目の前で見せられたそれはただの布っきれ、ではなくメイド服だった。
もうどうとでもなれ。