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一日奉仕致します


「アルバイトしようかと思ってるんだよね。」
「却下。」

ツノ太郎は、アイスを頬張りながらそう言い放った。今日は良い天気だったので寮に来るはずだったツノ太郎を誘って外で散歩をしていた。というか、今日は私はツノ太郎の気分転換を図っていた。困ったことに、今現在私には何故か彼氏が二人いる状態なのだが、この彼氏が強烈すぎて、私が何かするときは彼氏に「報告」しないといけないのである。そして、新しいことをするときは常に「許可」取らないといけない。何?召使かなんかですか?って?言いましたよね、彼氏です。
実は私にはやりたいことがあった。アルバイトである。基本的にここに来てから学園長に生活費はお世話になっているけれど、正直グリムの食費でカツカツだし、何か起こるごとにそれをダシにされこき使われるので、少しでも自分で稼げるようになりたかった。そんな時に、アズールさんからバイトを持ちかけられたのである。条件も悪くなかったし、バイトをすればレオナさんやツノ太郎との時間も少し減る…そう思ってアズールさんにはやりたいですと言った。アズールさんは、

「そうですか!貴方が来てくれればきっとうちの店は繁盛しますよ!」

と何故か嬉しそうだった。あくどい顔をしていたな。試しに、彼氏二人の中でどっちかと言うと優しい(笑)レオナさんに先に「お許し」を得てみた。言った時は、レオナさんは真顔で「は?」と冷たい一言を発した。顔がどっかのヤンキー漫画で見た悪役のそれだったので、怖くてちびるかと思った。なんだかんだ話を最後まで聞いてくれたが。

「金がねぇならやるが?」
「いや、そういうことをされると非常に申し訳ないので自分で稼ぎたいんですよ……。」
「俺はお前があのタコ野郎のとこで働くのが気に食わねぇ。金貰うのが嫌だっていうなら後で返せば良いじゃねぇかよ。」
「いや、でもバイトしないと返せなくないですか?」
「は?誰も金でって言ってねぇよ、な?」

そこでニヤリと笑ったレオナさんが怖すぎてこれ以上話すのはやめようと思った。しかし、バイト終わりに必ず毎日電話することを条件にバイトを認めてくれた。ね?どっちかと言うと優しい(笑)でしょ?
しかし、優しくない方のツノ太郎の許可が当面の問題であったため、私からツノ太郎を散歩に誘った。誘った時は大変喜んでいて、前日の夜に突然オンボロ寮に乗り込んできて大変だった。何が大変だったかというと、その日はレオナさんが寮に来ていたので、寮が一気に修羅場と化したことである。
そんなことは置いておいて。今日は久しぶりの二人での外出だった。ツノ太郎はルンルンとしていたが、私は今日このご機嫌なツノ太郎を見て感じた。今日だ、と。今日言わなければいつ言うんだ。正直ツノ太郎は恋愛面に関してはとち狂ってる気もするが、何もなければ普通に話せる人だ。流石にそこまで鬼じゃないだろうし、きっと話せば分かってくれる。意を決して、私はツノ太郎に向かって口を開いた。

「あ、あの、」
「どうかしたのか。」
「アルバイトしようかと思ってるんだよね。」
「却下。」

そこで冒頭に戻るわけだ。そ、即答〜…。何事もなかったかのようにアイス食べてるけど、心なしか彼の機嫌も悪くなった気がする。うそん。アルバイトしようと思ってるってだけで?ええ〜…。いや、ナマエ!ここで負けてはいけない!何故バイトに行きたいか言ったらきっとツノ太郎だって分かってくれるはずだ!

「な、何でダメなの?!モストロラウンジで働くだけだよ!危ないことないよ!」
「火を使うところだろう。お前に危険があっては困る。」
「えっ…ひ、火のところは近づかないと思うよ?ホールスタッフだから!」
「何時までだ。」
「え?日によるけど、早かったら夜の8時で、遅かったら11時くらい…。」
「遅いな。お前はただでさえ魔法が使えないのにそんな夜遅くまでウロウロして狙われたらどうする。とても心配だ。だから駄目だ。」

うぐっ…なんつー強敵だ…。レオナさんはチョロ…ゲフンゲフン、甘えれば何とかなったのにこの人は歯が立ちそうにない。狙われたらどうするって、今の私にそんなことしてくる人いると思う? いないでしょ。だって殺されるもん、絶対。前に私に悪絡みしてきた先輩を二人してボコっていたの知ってるんだからな。あれは確か、サバナクローだったかな…。何故二人は変なところで気が合うのか。
ツノ太郎は夜は危ないっていうけど、寮でレオナさんとツノ太郎が睨み合いながら舌戦してる時より危なくないし、二人急に息があってこちらに襲いかかってくるほど怖いものはない。だから大丈夫、とは流石に言えないからどうしたもんかな。オクタヴィネルの先輩鬼のように怖いから大丈夫って…?駄目だ、絶対もっと心配してしまう。泣き落とし?いや、効かないだろうな。人の心がないから。人じゃないけど。

「あ、あの、どうしてもダメ?私モストロラウンジの制服着たい…。」
「給仕の制服が?」
「はい!見て、めっちゃ可愛くない?これ、私が働くってなったらアズールさんが女子用に作ってくれるらしくって、そのサンプルなんですけど…。」
「これか。」

ツノ太郎に急いで携帯の画面を見せた。アズールさんにもらったサンプル資料の中に載っていた制服の写真、撮っといて良かった〜。まさかこんなに交渉が難航するなんて思いもよらなかったからな。でもツノ太郎がちゃんと反応してくれてるし、これは、攻めれば…イケる!

「そう!これ、これが着たくって!かわいいでしょ、ここがヒラヒラ〜ってしてて、人魚みたいなんだよ!ツノ太郎もモストロラウンジ来てくれたらこれ見られるし!良くない?」
「ふむ…。」
「そ、それに、お給料もね、結構高くって!もしいっぱい稼げたら、ツノ太郎に何か買ってあげる!何がいい?」
「いくらだ。」
「え?」
「賃金。いくらなんだ?」

ツノ太郎は私の話を聞いているかいないのか、モストロラウンジの賃金の話をしてきた。ええ、私今主に制服の話してたよね。聞いてた?聞いてないよね…。賃金…確かアズールさんの話によれば時給で1000マドルのはず。

「シフトが未定だからどれくらい稼げるか分かんないけど…確か一時間1000マドルくらいだったかな。」
「そうか。じゃあ僕は1万マドル出そう。」
「へ?」
「足りないか?どれくらい欲しい。いくらでも出せるから言え。」
「な、何が?ちょっと話が見えないんだけど…。」
「…?お金が欲しいんだろう。それだったら僕のところの手伝いをすると良い。給仕の制服が欲しいんだったらあつらえる。オクタヴィネルのラウンジよりは条件も良いと思うが。」
「え、え、え?」

ツノ太郎はいつの間にかアイスを食べ終えていたらしい。魔法で器用にアイスの棒をゴミ箱に飛ばしていた。私はツノ太郎の言ったことを脳内で反芻する。え、一時間で1万…?そんな怪しいアルバイトある…?そもそも私は、レオナさんとツノ太郎とちょっとは離れられるかも〜とか思ってモストロラウンジのアルバイトをしたいって言ってるのに、ツノ太郎の給仕の仕事なんて意味がない。ここは何とかツノ太郎を説得して、モストロラウンジで働くのを許可してもらわなければならない。話を逸らさねば。

「ツノ太郎にお金出させるなんて悪いよ。私のためにそんな大金出すことないって!」
「別に端金だろう。」
「端金じゃねーわ!」

たまにこういうことを言ってくるのが本当ーっに価値観が合わない。一時間1万マドルが端金だと…?リリアさんの教育どうなってるんだ。

「何を怒っているんだ。そもそもそんなことを言い出したら、今までナマエに送ってきた服やら装飾品やらはどうなる。今更気にすることないだろう。」
「いや、その、そうですけど…(あれも怖くて使えてないから一緒なんだよなぁ)」
「お金が欲しい、自分で働きたい、というなら絶好の条件だが?何が不満なんだ?」
「ふ、不満というか、その…。」

あれ?何か不穏な空気になってきてない?ツノ太郎が怖くて見られないけど、どんな顔しているか大体想像付くし。上手いこと躱さないとまた面倒なことになる。必死で言い訳を頭の中で巡らすけれど、納得させられそうなものがなかなか思いつかない。そうこうしているうちに、ツノ太郎が私の方に距離を詰めてきた。体がピッタリくっつく距離だ。彼は両手で私の頬を包み込んで、私の顔を上げさせた。彼の綺麗な緑色の目と私の目が合う。背中からスッと汗が溢れた気がする。彼は美しく微笑んだが、目が冷たい。ああ、どこかでスイッチを押してしまったようだ。

「ナマエ。」
「は、はい。」
「僕は、心配してるんだ。夜遅くまで働いて一人で夜道を歩くこともそうだ。ましてやその給仕の制服は全体的に露出が多い。お前に良からぬ思いを抱く奴も多いだろう。正直そんな姿誰にも見せて欲しくない。お前が大多数の者にその姿で奉仕している姿を想像しただけで気が狂いそうなんだ。分かるな?」
「わ、わかりました〜……。」

ドロドロに濁っている目をじっと見つめているだけでも怖いのに、一気に捲し立てられて言われると、こちらも戦意が喪失する。ツノ太郎はにっこりと微笑んで、そのまま私のおでこを頬擦りする。彼の片手はいつの前にか私の頭を撫でていた。

「それで、いつにしようか。僕はいつでも構わない。何だったら今日でも良いぞ。」
「あ、あの〜準備もしたいので、また今度ということで…。」
「ん?そうか。今度の休みか。わかった。必ずキングスカラーより僕を優先しろ。」
「あ、あの、つのたろ…頭、ギチギチ言ってる…痛いです……。」
「返事は。」
「はい。」

撫でていた手が私の頭を握りつぶさん勢いで掴んできた。返事を求められたので反射的に返す。ツノ太郎は途端にご機嫌になった。そのまま私の背中に腕を回し、ちゅ、と軽くキスをする。ここ、外だからやめて欲しいな…。