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プロローグ


※ssの蝶よ花よの時空です
※ふんわり5章のネタバレあります





ヴィルくんとの出会いをなんとなく思い出す。
転校した先で隣の先となった男の子がそれはまぁ綺麗な子だった。それがヴィルくんだったわけだけど、私は最初女の子だと思っていた。「うつくしい」とはこういうことなんだなと思って、躊躇ったけれど友達になりたかったので思い切って声をかけた。

「は、はじめ、まして。なまえです。」

ちょっと噛んでしまった。恥ずかしい。そう思って顔を床に向けた。それでも、「はじめまして。ヴィルです。」と答えてくれたから嬉しくなって顔を上げた。

「な、仲良く、して、ください。」

そう言うと、ヴィルくんは天使のような柔らかい笑みを浮かべながら私の手を両手で握ってくれた。……うん、この時はそうだったのだ。後は前に言った通りである。

ヴィルくんは厳しかった。いつも私の姿勢がどうだとか生活がどうだとか言ってきた。しかし、私に対する態度の何倍も、己に厳しかった。
ヴィルくんは何でもできる。強いし。後から母に聞いたことなのだが、結構有名な子役らしかった。私は当時テレビはアニメしか見なかったので、恐れ多くも知らずに話しかけてしまったのだ。

「なまえちゃん、たまにはあたしたちと遊ぼ?」
「そうだよ、ヴィルなんかと遊ぶ必要ないって!」

ヴィルくんの厳しい態度はクラスメイトに筒抜けなのか、よくこんなことを言われた。私が余程間抜けな顔をしていたのだろう、クラスメイトの子はほら早く、と急かしてきた。

「今から公園であそぶから来てよ!」
「ボールも持ってきてるんだよ!」
「あ、ボール。良いなぁ。」
「でしょでしょ?」
「でもヴィルくんと約束してるから行けないや。」
「そんなの断れば良いじゃん!あんな奴と仲良くしちゃダメ!」
「何で?」
「ヴィルは悪いやつだから!」
「うーん……。たしかにうるさいし怒るとこわいけど……。先に約束してるし……。それにね、ヴィルくん笑うとすっごい可愛いんだよ。」

うへへ、と笑うと何故かみんなにドン引きされていた。私が不思議に思って固まっていると、もー良い!とグループのリーダーっぽい女の子がどこかへ行ってしまった。やってしまったかもしれないなぁと思いながら教室を出ると、そこにはヴィルくんがいた。私が出てくると思わなかったのだろうか、目を丸くして驚いていた。

「……なまえ。」
「ヴィルくん?」
「遅い!何やってんのよ、10分遅刻してるじゃない。アタシと約束しておいて遅刻だなんて、時間には限りがあるのよ!」
「う、ご、ごめんなさい……。」

いつも通りのヴィルくんのお説教が出てきて体が縮こまる感覚がする。これだから嫌なんだ、ヴィルくんは怒るとちょっと面倒なのだ。
ヴィルくんは私がヴィルくんとの約束を守るために必死で彼女たちを説得していたのを知らないからな……。知って欲しい私の頑張りを。
ヴィルくんは一通り私に怒りをぶつけた後、くるりと回ってスタスタと歩き出した。ヴィルくんはモデルさんもやっているので歩き方が美しい。そして物凄く早い。かといって私が追いつかなかったら怒るので、急いでヴィルくんの横まで行かなければならない。

「ヴィ、ヴィルくん待ってぇ〜!」
「こんなんでゼーゼー言って、全然トレーニングがなってないわね、なまえ。」
「ひ!い、いや、ヴィルくんが凄すぎるだけだよ!」
「体力はちゃんとつけなきゃダメ。これからは女だからって甘えてはいけない時代よ。」
「な、なんかよくわかんないけど、はぁ、ちょ、早……。」
「……なまえ。」
「え?」
「ありがとう。」
「ぶっ!」

ヴィルくんが突然止まったもんだから、ちょっと追いつきそうだった私は彼の背中に顔面ごとぶつかり尻餅をついた。ヴィルくんがえ?!と驚きながらしゃがんだ。

「何やってんの?!」
「ごめん、急に止まるから…。」
「こういう時に体制を変えられるようにならないとダメよ。アタシがトレーニングつけてあげる。」
「え?!」
「文句でも?」
「い、いえいえ……。」

ヴィルくんに新トレーニングをつけられそうになった私は、必死で頭を巡らせてその回避方法を考えていた。
だから隣のヴィルくんが、そしてお礼を言った時のヴィルくんが、その時どんな顔をしていたかなんて私には想像もつかなかった。