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酷い女っす


短編天城燐音と短編椎名ニキの続きのようなもの


どうしよう。ニキくんがとっても怖い。最近押し倒されていっぱいちゅーをされたわけだけど、そうなったら気まずくなるはずなのに、ニキくんはむしろ押してきた。

「またチューして?」
「い、嫌だ……。」
「何で?何が嫌なんすか?燐音くんとはチューしたのに?」
「だからあれは勝手にされたんだって!」
「……………その手に持ってるものは何?」
「…………………おにぎり。」
「と、卵焼きね。誰が作ったか分かるっすか?」
「に、ニキくん………………。」
「それ、食べる気?」
「ええ…そりゃあまぁ……。」
「ふぅん。なまえちゃんが来るってなった日は急いで仕事終わらせて食材買って家帰ってきて、なまえちゃんが好きそうなご飯買ってきて作ってんすよ。そういえばなまえちゃんお礼こそ言うけど分かってる?材料二人分買ってるっすからね僕。」
「お、横暴だぁ!」
「だからお礼の、チュー。お金せびっているわけじゃないんすから良いじゃないっすか。」
「そ、そんな……。」
「ぐだぐだ言ってたらこれ、没収するっすよ。」
「そんなぁ!」
「じゃあしてくれる?」
「……前みたいに変なことしない?」
「しないしない。」

ニキくんが何とご飯を人質……人質?飯質?してきたので急に形勢が逆転した。押し黙った私を肯定したと捉えたのかニキくんがジリジリと近づいて来た。両肩を掴まれる。そのままニキくんの顔がどんどん近付いてきて私はそのままチューをされたってわけだ。いや、もうあれは喰われたという表現が近い。酸欠になりかけてドンドンと胸を叩いたけど、ニキくんは全然動かなかった。泣いた。
流石にこの前のような不穏な動きは見せなかったけれど、私はもう限界だった。ストレスが半端ない。ちょっと前まで心のオアシスだったニキくんは、私の中でただの狼になってしまった。一体どうして。

悶々と考えながらESビルへ向かう。こんなにも考えているというのに無情にも仕事をしないといけない。

「よぉなまえ。相変わらずシケた面してんじゃねぇか。」
「天城燐音……。」
「んだよ、ほんとにしょぼくれた顔してんじゃねぇか。」
「天城燐音……!」

ESビルを入ろうとしたまさにその瞬間、声を掛けられたその姿に、縋るように彼の両腕を掴んだ。目を丸くしているその人物は、あの憎き天城燐音である。

「え?!な、なに、どした?!俺っちもしかして襲われる?!」
「うるさいっ!」
「り、理不尽!」
「天城燐音、こ、こんなこと頼みたくないけど、相談があるからお昼休み空けてて!一緒にご飯食べよ!」
「ハァ?相談?」
「あ、で、できれば外で!」
「………あー。じゃあ俺っち今日はちょうど午前で仕事終わるから空けといてやるよ。奢りな。」
「う、ぐ、ぐう…。わかりました……。」

お、おごり?今月ちょっと厳しいのに…。しかし背に腹は変えられない。私はこの憎き男にもう頼らざるを得ないのだ。悔しいことに、天城燐音はニキくんにとってとても大事なお友だちらしいから、天城燐音に相談すればあのおかしな状況をなんとかしてくれるのかもしれない。他に良い方法なんて分からないし、ニキくんに直接言ったって、本人に丸め込まれておしまいだろう。だから頼らざるを得ないのだ。
天城燐音は満足そうに笑ったと思えばそのままスキップをしながらビルへ入っていった。おっごり、おっごり〜と鼻歌混じりで。
私は彼がビルの奥へと消えていったのを確認した後、財布の中をこっそりチェックした。ひぃふぅみぃ、うーん、ギリギリいけるかなぁ。



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「んで?外に誘ったっつーことはニキ絡みだろ?どうだよ最近。大方俺っちが葉っぱかけちまったから暴走してるとかじゃねーの?」

天城燐音は私が状況を説明する前に、大体のことを言い当ててきた。驚いてジュースを飲んでいた口が止まる。ストローから飲みかけていたジュースがグラスに戻ってしまった。

「え、何で。」
「俺っちはニキのことなら何でも分かるんだよ。」
「何でもって……じゃあチューされてるのも知ってる?」
「はぁ?この前だけじゃねえのかよ。」
「知らないんじゃん。」
「俺っち別にお前らの惚気聞くために来たんじゃねぇーんだけど。」
「惚気じゃない!困ってんの!」
「なまえが満更でもない顔してるからニキもやるんだろ〜?」
「本気で困ってるの!聞いて!」

さっきまで前のめりでニヤニヤしてたくせに、急にやる気がなくなった天城燐音に対して怒りが湧いてくる、こっちは真剣に悩んでいるというのに急に面白くね〜みたいな顔しやがって!
そもそも私が喜んでいるみたいな表現は不適切だ!た、たしかにちょっとニキくんのチューは上手いので流されそうになっちゃうけれど……けれど!
断りきれないのもニキくんが怖いからであって!決して!私は喜んでいるわけではないのだ、決して!
というかどうしてそんな急にやる気なくすの?ていうか心なしか機嫌悪くなってない?

「何怒ってんの?」
「怒ってねぇよ。相談ってそれだけ?」
「いや、その…ニキくんに、そういうことはやめてって、やんわり、その、まるで天城燐音がそう思ったみたいな感じでいって欲しいな〜と思って……。」
「ハァ〜?何で俺っちがそんなことしないといけないわけ〜?なまえもニキが一回決めたら物凄いしつこいことくらい知ってるっしょ。めんどいからヤダ。」
「し、知ってるけども!私はちょっと頭が悪いからすぐニキくんに上手いことやられるし…!く、悔しいけど天城燐音はニキくんのお友だちだから多少はマイルドになるんではないかなぁという期待を……。」
「なまえはちょっと頭が悪いんじゃねぇよ。」
「え?」
「だいぶ頭が悪いんだよ。」
「おい!」
「もう腹一杯だわ。帰るぞー。」
「え、ちょ、ちょっと。」

天城燐音はお腹をさすりながら立ち上がった。ほ、本当にびた一文も出さないつもりだ……。なんてケチなんだろう。しかも人がここまで切実に頼んでいるというのに平然と耳をほじりながら外へ出ていくなんてどんな神経しているんだ。恨めしげに睨みつけながらお会計を済ました。ズンズン、と天城燐音がいる店の外へ出ていき、彼の目の前に立つ。一言文句を言ってやらないと気が済まない。すると、天城燐音は私のおでこにデコピンをお見舞いした。

「痛っ!」
「んなシケた面すんなって。ニキには言っといてやるから。」
「?!ほんと?!」
「おう。効果あるかなんて知らねーけどな。」
「あ、ありがとう!」
「でもなーニキにこういうこと言うの結構神経使うからなー。ランチ1500円分だけじゃ足んねぇなぁ。」
「え?!ぅ、ぐ、じゃ、じゃあ何をすれば良いでしょう、か………。」
「ニキにやってるみたいにハグしろよ、なまえから!」

それを言われた瞬間、時が止まったのを感じた。天城燐音の顔はニコニコと腹立つ笑みを浮かべているだけである。しかし、これを耐えればニキくんへの対策が出来るかもしれない。例え憎き天城燐音でも、ニキくんの怖さを軽減できるなら万々歳だ。耐えろ、なまえ耐えろ……!

「なーんてな!冗談に決まってるっしょ……、」

天城燐音がなんて呟いたかは聞こえなかったが、私は彼のお望み通りその場でハグをした。周りに人通りがあまりなかったのが救いだが、よく考えたらコズプロが絶賛売出し中のアイドルだよね?やべー、もしこれが記事になったら副社長に鬼ギレされる……。そう考えていると顔から血が抜けたような心地がした。ちょっと待って天城燐音なんで固まってるわけ。せめてそこは自分も腕回すか爆笑しながら引き剥がしてよ!!!

「……なまえから来たってことは……良いってことだよな………。」
「あ、あのー?」
「俺っち用事思い出したから先帰るわ。」

天城燐音はそういうと私をベリっと引き剥がし、さっさとどこかへ駆け出していった。は、早い。野生児のような早足だ。しかし、これで本当にニキくんに言ってくれるのかな。いまいち不安感が取れぬまま、ESビルに残している書類の束を思い出し、仕方なしに事務所へ戻るのであった。



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今日はようやくの休みだったので朝からゆっくりするつもりだった。しかし、朝からチャイムが鬼のように鳴り響き、飛び起きる羽目になった。誰かと約束してて、寝坊でもしたのだろうかと思って携帯のディスプレイを確認すると、時計は7時半を指している。こんな朝早くに誰だ。全く、不愉快だなぁ。

「おはようございます、なまえちゃん。」

これは長年一緒にいたのでよく分かるのだが、それはもう物凄く怒っている時のニキくんの笑顔だ。私は玄関に入れてしまったことを後悔した。その後ろには、何故かちょっとモジモジしている天城燐音がいる。え、そんな姿見たことないんだけど。

「お、おはよーニキくん。もしかして今日って、なんか約束してたり…?」
「いや、僕が確かめたいことがあって来ただけなんで。燐音くんから話を聞いてどうしても。」
「た、確かめたいこと…?」

ちょ、ちょっと!何でそんなに怒ってるわけ!天城燐音何を言ったの!と思って縋るように天城燐音を見れば、パッと目を逸らされた。何故か頬が真っ赤である。え、誰あれ。

「燐音くんがなまえちゃんと結婚するからなまえちゃんに手を出すなって言ってきたんすけど、それは本当っすか?」
「け、結婚?!」

慌てて天城燐音の方を見る。

「なまえが俺っちのことやっと受け入れてくれたからな。」
「どういうこと?!」
「俺っちは婚前なのにこの前思わずキスしちまったから…責任取ろうとは思ってたんだよ。でもなまえの意思がねぇとそこは無理矢理になっちまうからどうしようかと思ってたら、この前なまえからハグしてくれたんだよ。」
「ちょちょちょ、待って待って。」
「ハ?ハグ?聞いてないっすそれ。」
「言ってねぇからなぁ。」 
「天城燐音ストップ!ハグだけで私が天城燐音を受け入れたって何それ物凄い解釈!違うよね?!そもそも結婚しようって言われてないから!」
「前何回か言ったじゃねぇか。」
「言ってたね!言ってたけどそうじゃないよ!ちゃんと言葉で言わないと伝わらないんだよ!」
「なまえちゃん、ハグってどういうことっすか?しかもなまえちゃんから。僕、いつもなまえちゃんにお願いしてばっかりで、なまえちゃんからやってくれたこと全然ないっすよね。酷い、僕ばっかり……。この浮気者。」
「え、何これなんの罰ゲーム?」