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君は魔法使い


※not監督生




トレイくんはいつだって真っ当で優しい。
いつも私にケーキを作ってくれるし、面倒見てくれる。鈍臭い私を構ってくれるのはトレイくんだけよ、そう母は怖い顔をしながら私に言うのだった。
母は私に当たりがきつい。私がトロ臭くて何をやっても不出来だから。自分の思い通りの子ではないから。
でも、私は母に好かれたかった。いつだって母に愛されたかった。だから、なんとか自分で母に喜んでもらえることがしたくて、トレイくんにどうしたら良いか聞きに行った。トレイくんは同級生の男の子だ。小学校から一緒。私に唯一優しい人。同級生は私のことがあまり好きではなかったから、トレイくんくらいしか友達がいない。
トレイくんは、私が問うとニコリと笑って言った。それならば何か食べ物を作ってあげればどうだ?

トレイくんにそう言われたので、母がいない間に料理の準備をする。あれ、ボウルはどこにあるのかな。それと、何を用意すれば良かったんだっけな。
やっているうちにキッチンはぐちゃぐちゃになった。帰ってきた母は、無言で道具を片付ける。私はそれをただ見ているだけだった。
おかしいな、昔はお母さんがいない日は料理とかしてたのに。

堪らなくなってトレイくんの所へ行けば、トレイくんは、こんな時もあろうかと用意したんだ、と大きなケーキを私に見せた。そのまま二人で私の家に戻って、トレイくんはお母さんにケーキを渡した。お母さんはみるみるうちに喜んでいた。トレイくん、良かったら家上がって。母の上擦った声が聞こえた。
トレイくんはその夜私の家でご飯を食べた。母は私には見せたこともないような笑顔でトレイくんと話していた。なんだか悲しくなって、パンをチミチミと千切って食べた。

その夜、トレイくんが泊まっていくことになった。嬉しくて、急いでトレイくん用のシーツを用意する。トレイくんはたまに泊まりに来る。私はその度、トレイくんの話を聞くのだ。
トレイくんは友達が多い。いつも色んな同級生の子と遊んでいる。トレイくんはなまえも遊ばないか?と言ってくれるけど、私は断っていた。行ったところで、白い目で見られるだけなのだ。前は一緒に遊んでくれたのに、どうしてなんだろう。


「なまえ?」
「…ぁ、ごめんなさい。ボーッとしてた。」
「どうした?お母さんとのこと以外で、何かあったのか?」
「いや、トレイくん、友達いっぱいだな、って思って…。」

トレイくんはそうだな、と微笑んだ。でも、いつもの微笑みと違う。何か、目の奥の方が、燃えているような、そんな感じ。トレイくんはたまにこういう笑い方をする。
スリ、とトレイくんの方に近付き、腕を引っ張る。トレイくんは私の顔を覗き込んだ。

「…トレイくん。いつもの、落ち着くやつ。やって欲しい。」
「ん?分かった。まったく、仕方ないな。ほら、目閉じてろよ。体の力抜いて。」

トレイくんに言われた通り目を閉じる。少し前に、トレイくんから心が落ち着くおまじないだ、と言われてから、たまにお願いしていた。だって本当に落ち着くんだもん。と、言うより、なんか頭がふわ〜ってして何も考えられなくなる感じ…。


「薔薇を塗ろう」





「トレイくん、本当にごめんなさいね。なまえ朝なかなか起きないから…。また来てくれるかしら?」
「ええ勿論。」
「ありがとう。なまえ、トレイくん以外と本当に喋らなくなっちゃって…。私、どうしたら良いのか分からないの。だからトレイくんが来てくれると助かるのよ。前まで料理もできてたのに、今日はキッチン道具がどこにあるか分かんなかったみたいで、キッチンがぐちゃぐちゃになっちゃって…。どうしちゃったのかしら…。」
「おばさん、大丈夫だから泣かないでください。なまえには俺が着いてるし、何かあったらいつでも駆けつけますから。」