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蝶よ花よ


※not監督生



幼少期は碌なもんじゃなかった。

エレメンタリースクールの時に、輝石の国のとある町に引っ越すことになった。学校も転校することになって、初日に自己紹介をした後、先生に席を指示された。言われた通り向かうと、隣にはなんとも綺麗な子が座っていた。小さかったので美醜はあまり無頓着だったけど、「うつくしい」ってこういうことなんだな、と思ったくらいには綺麗だった。

「は、はじめ、まして。なまえです。」
「はじめまして。ヴィルです。」
「な、仲良く、して、ください。」

そう言って手を差し伸べれば、当時のヴィルくんは天使のような柔らかい笑みを浮かべながら私の手を両手で握ってくれた。
私は転校したばかりで心細かったので、お友達ができたことが本当に嬉しかった。
しかし、ここで彼に話しかけたことが人生の詰みとなるとは、この時予想もしなかった。

「なまえ。何、そのだらしない髪は。直しなさい。」
「ちょっとその服どういう基準で選んだの?そのシャツとそのスカート、全然合ってない!」
「背筋!丸まってる!」

隣でワーワー言ってるのはあの時柔らかい笑みを浮かべていたはずのヴィルくんだった。彼は成長と共にメキメキと美しくなり、ミドルスクールに入った今はもう私が近付いてはいけないような美形だった。というか気が付いたら芸能人だった。嘘でしょ。
そんなヴィルくん、私が話しかけた日からやたらと私に構い、目があったと思えば髪の毛をチェックされ、顔を合わせたと思えば服にケチをつけられ、あまつさえ背筋を正せと背中を叩かれる。
毎日毎日責められるもんだから、私はヴィルくんを見るたびに震えた。だって怖いんだもん。




もっと嫌だったのは何故か食事制限を強いられたことだった。私は昔からケーキとか甘いものが本当に大好きで、毎日食べても良いと思っている。のに、ヴィルくんが家に来たかと思えばチョコを没収された。泣いた。泣き叫んだけどヴィルくんは無視した。最近私のニキビとむくみが酷いからやめろとのことだ。酷い……この時ばかりはヴィルくんを睨みつけたが、糠に釘だった。
さらにさらに、一番トラウマなのは初めて貰ったラブレターをヴィルくんに見せに行ったら、ニコリともせずビリビリに破られたのである!
その時は脳内が「え?」でいっぱいだった。ヴィルくん何で、と言えば、ヴィルくんは、

「くんって付けないでって言ったでしょ。」

って冷たく睨んで、私の頬を抓った。
彼の言い分だと、なまえは今から磨いていかないといけないのにこんなことでうつつを抜かしては困るといったことだった。全く納得いかない。だって私は芸能人になる気もないし予定もない。恋だってしたいのに!

そんなわけで、ハイスクールは、絶対にヴィルくんと違うところに行く…!そう決意していたある日、なんと私の元にナイトレイブンカレッジの招待状が来た。私は藁にもすがる思いでその招待状を手にした。数ヶ月後には馬車が迎えに来た。この際男子校なのに何で?とか言っている場合じゃなかった。絶対に間違いだったけど、私はこのチャンスを無駄にする気はない。結局学園側の手違いだったけど、必死で訴えれば特別に入れてくれた。とりあえず男装もしてるけど、バレている感じもない。よし、これで私は学生をエンジョイできる!
ヴィルくんの進路を全く聞いてなかったけど、私はヴィルくんの鬼のレッスンから抜け出したい!この輝石の国を抜け出せば彼から離れられる!


そう思っていた日が私にもありました。

「なまえ、アンタ何でここにいるの?」

目の前でめちゃくちゃ美人な男性が目を丸くしている。知らないフリがしたかったのに、何故かその人は私に気付いて声をかけてきた。

「ヴィ、ヴィルくん、久しぶり…。」
「ちょっと"くん"付けするなって言ったわよね?」

ヴィルくんは私のほっぺを抓った。
厳しい目をしたヴィルくんを見て、背筋を伸ばした。条件反射だ。
私の人生、再び詰んだ。