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竜胆に懐かれる



蘭の短編「蘭に縛られる(物理)」の続き



「ほらよ、今日の飯。」
「わ、わー。オムライスだー。ありがとう……。」

竜胆くんがダルそうに私の前にオムライスを置く。ダルそうに置いた割にはとろとろの卵の上にはハートマークが書かれていた。竜胆くんはこういうところがある。
少し前に彼氏である蘭が仕事で不在にしているのをいいことに、同僚と久しぶりに飲み会をしてはしゃぎまくったのがバレ、けちょんけちょんにやられてから何故か蘭の家に住むことになった。そして意味の分からないことに、蘭の許可なしに外に出られなくなった。本当に意味が分からない。仕事も辞めることになってし、友人もあの日の夜に切らされた。行為中に携帯を差し出されて「消せよ」って真っ暗な瞳で言われれば消さざるを得ない。その前に「消さねーとこいつら全員殺すからなぁ」と言われたのも大きい。私は蘭がちょっと、いや、だいぶ危ない仕事をしているなんて本当に知らなかったのだが、その日の夜に嫌という程思い知らされた。前からちょっと頭のネジ外れた人だなって思っていたけれど。

それでどうして竜胆くんが出てくるかと言うと、蘭がいない時に私の身の回りの世話をしてくれているのが彼だったのだ。蘭に弟がいるのは知っていたが、まさかこんな形で会うなんて思わなかったよ。竜胆くんもきっとびっくりしていると思う。まぁでも兄と一緒でしっかりアウトローな竜胆くんは、私を逃がそうとする雰囲気は微塵も感じられず、兄の言うことをきちんと聞いて私にご飯を与えたり、部屋の掃除をしたり、結構甲斐甲斐しい。私も最初は逃げようとしたけれど、竜胆くんの監視の目が鬱陶し……、いや、キツくて、一旦逃げるのは諦めて竜胆くんと仲良くすることにした。最初こそ私が話しかけると嫌そうにしていた竜胆くんも、毎日根気強く話しかけ続けたおかげで、今では私の雑談にも付き合ってくれるくらいまでにはなった。なんせオムライスもハートマークだ。竜胆くんは結構今私のことが好きである。

「いただきます、いつも本当にごめんね、蘭がこんなことしなければなぁ。」
「気にすんな、いつもこんな感じなんだよ。むしろなまえの世話で済むなら楽だし。」
「ええ、申し訳ないなぁ。このオムライスだってこんな美味しいんだから、私じゃなくて彼女に作ってあげなよ。って、もう作ってるか。」
「彼女いねーよ。くだらねぇこと言ってねぇで早く食えよ。」
「え、あ、はーい。」

竜胆くんに促され、オムライスを頬張る。相変わらず美味しい。口の中で卵がとろける。言動は粗雑なのに結構何でもこなせるんだなぁ。このままじゃなーんもできなくなっちゃいそうだなぁ。というか、竜胆くん彼女いないのか。顔も蘭に似てて格好良いし、なんでもやってくれるから、モテそうだけどなぁ。まぁでもアウトローなのは除くとして。私は蘭の顔が好きなので、竜胆くんの顔もいくらでも見られる。

「あ、そうだ。竜胆くん、蘭ってそういえば今どうしてんの?」
「兄貴?」
「うん。最近姿見えないけど。」
「あーなんか面倒な仕事が入ったから長期で行ってんだよ。俺は兄貴が言ったからここに残ってなまえの世話。」
「さ、さいですか……じゃあしばらく戻ってこないと……。」
「そうだけど。」

そうか、蘭、しばらく戻ってこないんだぁ。ふーん……。しばらくって言っても口ぶり的に最近出たっぽいし、多分数日は帰ってこないだろうな。そして目の前にはオムライスにハートマークを書くくらい懐いている弟……。これは、これは……大チャンスすぎる。今の竜胆くんだったら私が逃げ出すのに協力してくれるかもしれない。いや、まぁ竜胆くんも蘭には逆らえないところがあるのはなんとなーく分かってるけど、少しは同情心みたいなのが生まれるだろうし、隙みたいなものがあるのではないかな?!むしろちょっとでもそんなものがないと今まで頑張って竜胆くんと仲良くしてきた意味がない。これはもう賭けるしかない。

「竜胆くん。」
「あ?」
「あのね、蘭にこの家に連れてこられたわけだけど、その、そろそろ、私、自分の家帰りたいかな?とか思ってるんだけど、ね、蘭がいない間に出してくれるとか、ある?」

チャンスと思えば途端に緊張してうまく話せなかった。喉から絞るような細い声が出た気がする。帰りたいかな?じゃない。帰りたいのだ。竜胆くん、なんとかうんって言ってくれないかなぁ。まぁ蘭の言うこと聞くってなったらそれはそれで仕方がないと思うのだけど、チクられるのだけは阻止できるように今から考えておこう。

「……やだ。」
「へ」

竜胆くんが小さく一言呟く。やだ?やだって、えーやっぱ家帰れないのか。この兄弟、やっぱり倫理観がおかしいな。普通仲良くなってきた人に頼まれたらちょっとは迷わないか?まぁ思っても仕方がない。別の方法を考えるしかない。そう思っていると、竜胆くんが私の後ろに回り込んで、ぎゅっと抱きしめてきた。く、苦しい。こんなスキンシップされたことないぞ。首の方にまわっている竜胆くんの腕をポンポンと叩いてみたが、離す兆しがない。竜胆くん?と呼ぶと、彼はフルフルと首を振っていた。

「なまえがここからいなくなるなんて、考えられねぇ。最初は兄貴に言われただけだから怠いなって思ってたけど、いつも美味しいって俺の飯食ってる時とか、お礼言ってくれたりとか、くだらねえ話してる時とか、なまえが笑ってる時の顔も兄貴にいじめられて泣いてる時の顔も怒ってる時の顔もすげー好きになってて、だんだん兄貴じゃなくて俺のこと見てくんねぇかなとか、兄貴より俺の方がなまえのこと思ってんのにな、とか思うようになってきて、なまえとの時間は特別で、それなのにいなくなるとか言うなよありえねぇ、ぜってえ行かせない、どんなに周りに邪魔されようが、なまえが逃げようが、いつだって先回りしてお前の逃げ道塞いでやる。」
「うーんそうきたかぁ。」